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【三度目の正直】
整備された林道を抜けると一気に視界が開けた。
『風の里ファーム』の道標を横目に東へ車を走らせる。
駐車場に車を停め、農村部に入った。
土耕栽培と水耕栽培のメリットとデメリットを研究している施設に美月はいる。
広大な農村部の敷地内で美月がいそうな場所に当りをつけ、苺のビニールハウスへ向かう。
50棟あるビニールハウスの一番東、大粒で甘みの強い品種『甘雫姫』が美月のお気に入りだ。
近づくと案の定、美月と数人の農村部担当者の姿が目に入った。
ハウスの扉を叩くと美月が一番に振り向いた。
僕だと解ると満面の笑みを向け走り寄ってくる。
「疾風っ!突然どうしたの?こっちで仕事?」
「まぁ、そんな所。それより、甘雫姫よく育ってるじゃない」
「そうなのよっ!疾風のお蔭様よ。利用許諾権取ってくれたから。ねっ、食べてみて」
美月は僕の口元に甘雫姫を差し出した。
僕は差し出された美月の手を取り、甘雫姫を頬ばる。
本当に甘みが強く美味しい。
「今年はいちご狩りイベントができるわ。12月のクリスマスシーズンにいちご狩りイベントをするの。どう?」
瞳をキラキラさせ観えている未来を僕に告げる。
「うん、楽しそうだね。美月が観えている通りにやってみたらいい。僕も協力するよ」
「いいの?疾風の手が入ると途端に規模が大きくなるから」
そう言いながら零れる笑顔が眩しくて仕方がない。
今すぐに抱きしめて、これからの事を告白したくて溜らない衝動を僕は必死に抑えていた。
「美月、今夜は時間取れる?」
僕は美月の手からもう一つ甘雫姫を掬い上げながら予定を確認した。
「うん、今夜は大丈夫。疾風、今日は泊りなの?」
いつもは里山全体の状況確認をしたらとんぼ返りだから美月は怪訝そうな顔をする。
「うん、今夜は泊り。色々話したいことがあるし」
美月は一段と輝く笑顔で夕食は農村部の食材で作っている弁当にすると言ってスマホで予約を入れていた。
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