三度目の正直

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【二度目の告白】 「それで、あなたは美月のいる里山へ行くというの?」 僕は、叔母の充希(みつき)を前に本家の応接間にいた。 「はい」 吉祥家本家現当主である叔母を真っ直ぐに見据え、僕は美月への想いを告白する決心を固めていた。 「はぁ、何もあなたがいかなくとも里山のプロジェクトは上手く回っているではないの。美月ひとりで充分だわ。もし、人手が必要なら本家から息子の(りょう)を行かせれば問題ないでしょう?あなたは吉祥家本家の次期当主なのよ。勝手なことは許されないわ」 「叔母様・・・・いえ、当主。そもそも嫡流でない私が次期当主ということがおかしいのです。(りょう)こそが嫡流ではありませんか」 僕は筋目を立てた話へ叔母を誘導する。 「いいこと?疾風。人には力量、器というものがあるの。涼とあなたの力量の差は明らかだわ。あなたこそ、次期当主にふさわしいと一門の皆も暗黙の了解をしていることでしょう?今更・・・・」 20年前のあの告白の日から三ヶ月後、父が管理していた里山は豪雨に見舞われ、僕らの両親は揃って他界した。 僕と美月はたまたま東京の本家にいて、難を逃れた。 それから僕らは父の妹で本家に嫁いだ充希(みつき)叔母上に引き取られ、本家で育てられた。 「当主が、そのように仰しゃいますか。叔母様ご自身が一番にご理解下さるのではないのですか?父を実の兄を愛した叔母様なら」 「疾風っ!黙りなさいっ!」 「いいえ、黙りません。お認め頂かなければ母がうかばれません。父は母ではなく、あなたを生かした。あなたを先に逃がしたっ」 「それはっ・・・・」 「言い訳はお聴きしましょう。しかし、認めて頂きます。里山の家で両親の躯を見つけた時の私を想像して下さい。5歳ですよ。5歳の子供にも解った。母は父と共に死ねた事に喜びを感じていた。母のあのような幸せそうな顔、見た事がありませんでした。いつもどこか不安気な眼で父を見つめていた。私が美月に告白をした時など泣きそうな顔をしていた。父とあなたの事を知っていたからです。父は母を愛していたと信じています。しかし、父の愛は、あなたにあった。母は家族としては愛された。だが、一人の女性として愛されることは一生ないと知っていた。だからっ!自分の娘にあなたと(おん)が同じ名前の美月(みつき)と名付けた」 「やめなさいっ!疾風っ!それ以上、颯一兄様と私を侮辱するのはおよしなさいっ!」 「いいえ、やめません。あなただって同じだ。亡くなられた叔父様、前当主を男性としては愛していなかったでしょう?当主として尊敬し、家族として愛してはいた。しかし、あなたの心と魂は兄である父にあった。それが、周りをどれほど傷つけたことか、あなたならその痛みを理解しているはずだ。封じ込めた心と魂は解き放たなければ誰も幸せになれないし、ならない。だから、僕は世間がどうとか、周りがどうとか、吉祥家がどうとか関係ないっ!僕は美月を愛しているっ!」 僕は叔母に美月への想いを告白した。
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