三度目の正直

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「疾風っ!やめなさいっ!美月は涼の許嫁よっ!吉祥本家の(くだ)した(めい)を嫡流であるあなたが覆せば一門への示しがつかないこと、解っているでしょう。それに里山プロジェクトをここまで成長させたのは疾風、あなたの力量でしょう」 「僕は嫡流ではない。嫡流と呼べるのは涼だけです。あなたは父の血を父の面影を僕に映しているだけだ。それに二代に渡って同じ吉祥分家の血を本家に入れる事は避けるべきでしょう。叔母様、冷静になって下さい」 「冷静になるべきは疾風でしょう。同腹の妹と一緒になるなど」 「かつての吉祥家では容認されていた。先を見通す目を持つ者を絶やさない為に。その力は本家の脇を固める為に必要な力であって、当主自身が持つものではない。叔母様、あなたがどんなに一門の皆を欺いても僕と美月の力は里山プロジェクトを見れば明らかだ。僕らは本家の脇を固める存在であって、本家を継承する者ではない」 冷静に努めて冷静に叔母へ美月への愛を告白するつもりだった。 だが、話は平行線を辿るだけで一向に進展しない。 僕は予め用意していたもう一つのプランに舵を切る事にした。 「叔母様の吉祥本家の嫡流云々のお考えに賛同したとしましょう。もう一人の兄の事をお忘れですか?僕らの兄、風雅(ふうが)がいます。僕を次期当主にとお考えなら風雅兄の方が器として大きい。本家の大元事業である貿易を担っているのですから。たかだか、国内の小さな里山プロジェクトをいくつか成功させたからと言って、それが何です?風雅兄の功績の方が遥かに大きなものではないですか。涼は風雅兄も認める力量を備えています。正に嫡流だと。どうです?総合的に見ても叔母様の仰り様には無理があります。僕の姿が父に似ているから、あなたは僕を傍に置きたいだけだ」 「それはっ・・・・」 「何も言えないでしょう。僕が何の地固めもせずに現当主であるあなたに美月への想いを告白したと思っていますか?軽く見られたものだ」 僕は大きく息を吸った。 「涼、入ってくれっ!」 僕は応接間の扉に向かって大きな声を上げた。 「失礼します」 僕の従兄弟で叔母の長男、吉祥家本家の嫡流である(りょう)が静かに扉を開けた。 「なっ、なぜ?あたなが・・・・イギリスにいるはずじゃ」 「当主、いえ、母様、ご無沙汰しております。 疾風、従兄弟(にい)さんに重要な告白があるから立ち会って欲しいと懇願されましたので一時帰国しました。ああ、ご心配なさらずに風雅、従兄弟(にい)さんの了承は得ています。本社での仕事も仰せつかってきましたので」 「・・・・座りなさい」 叔母は観念した様に涼に同席を許した。
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