三度目の正直

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涼は座るなり、手にしていたタブレットを叔母の方へ向けた。 「当主、こちらをご覧ください」 そこには吉祥分家の傍系、天崎家の次女との婚約を了承する吉祥一門64家門現当主の名が連なる証書が表示されていた。 「なっ!これはっ!」 涼を見る叔母の顔は色を失った。 「美月との事はあくまで本家の思惑に過ぎないでしょう?正式な文書で婚約していた訳ではないし、僕らを姉弟と認識している家門の方が多い。だから、正式な手順を踏みました。天崎の次女とは留学先が一緒で気心も知れている。彼女も僕に好意を持ってくれていたし、天崎家にとっても本家への輿入れは願ってもないことでしょう」 涼は蒼白の叔母の顔を見つめた。 「僕はね、母さん。父さんが恋焦がれ、やっとの事で結ばれたあなたの心が父さんにないことを知っていましたよ。子供の頃から僕へ向けられる眼差しより疾風に向けられる眼差しの方が遥かに愛に溢れていると感じていた。それは、吉祥家一門を思えばこその事だと自分に言い聞かせていました。あなたに愛されたいと思えば思うほど、疾風が憎く妬ましく感じたこともあった。でも、あなたの愛を疾風が欲していた訳ではないと気付いた時から楽になったんです。僕も疾風を好きでしたから。ああ、誤解しないで下さいね。あくまで人として尊敬していると言う意味での好きですよ。そう、あなたが父さんに抱いていた気持ちと同じです。人として尊敬している好意であって、愛しいではない。僕は誓いました。僕は僕を愛しいと想ってくれる人、僕が愛しいと想う人と生涯を共にしたいと。吉祥本家の当主と伴侶として支えあいたいと。その相手は美月ではない。それだけです。これで皆が幸せになれます。吉祥一門の皆が物心両面で幸福である事が、吉祥本家の望みでしょう?」 涼は子どもの頃から抱いていた感情と共に一気に叔母に告白をした。 涼の少し切なそうな瞳に叔母は目頭を押さえる。 「母さん、あなたが当主である前に僕の母親であってくれるなら、僕を息子として愛してくれているのなら、僕の告白を、僕の気持ちを優先してくれませんか?最初で最後の我儘を聞き入れて欲しい」 涼の声が震えている。 母親の愛情を一身に受けるはずであった涼の切なさが僕の胸を締め付けた。
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