三度目の正直

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叔母への告白から二ヵ月が経った。 僕は事前に計画していた通り、吉祥本家での仕事も荷物もすっかり片付け、今日、愛しい美月がいる里山へ向かう。 今生(こんじょう)の別れではないが、両親が他界してから僕らを20年間育ててくれた充希(みつき)叔母へ本家を去る前に挨拶をしていこうと思う。 当主との面談予定は形式通り秘書を通して入れておいた。 僕が当主の執務室に出向くと秘書は静かに扉を開け、僕の来訪を当主へ伝える。 「どうぞ、お入り下さい」 慣れた事務的な情景が妙に愛おしく感じた。 「失礼します」 僕は形式通りの挨拶で叔母の執務室へ入った。 叔母は黙ったまま少し寂しそうな目で僕を見つめた。 「当主、いえ、充希叔母様、これから里山へ向かいます。長年、僕らを育てて下さったこと、愛情を注いで下さったこと、感謝しています。そして、僕の告白を受け入れて下さったことも」 僕は叔母の執務机の前で深々と頭を下げた。 「今後も僕らに授かった吉祥本家の脇を固める役割を全うしていきます」 感謝の言葉だけでは伝えきれない程の事を与えてもらっていたと実感している。 だからこそ、長々とした言葉は必要ないと思った。 「ご用命があれば美月と共に直ぐに駆け付けます。ご安心ください」 僕は叔母へ握手を求めた。 叔母の目は潤んでいた。 前当主である夫に代わり当主となってから弱音を見せた事がない叔母の初めて見せる涙だった。 叔母は立ち上がり僕の手を取ると一通の封書を握らせた。 「美月がいる里山の借地権利書よ。元々はあなた達のお母様のご実家の土地だった。所有者を吉祥本家から移す事はできないけれど、疾風と美月が存命中の借地権を与えるわ。里山プロジェクトとは離して二人の好きな様にしなさい。ただし、他の里山は通常通りのままよ。吉祥本家の一員であることに変わりはないと思っていて」 叔母はいつにも増して優しい微笑みを向けた。 僕は美月を想うがあまり、叔母に酷い告白の仕方をしたと思い知った。 叔母は何でもなかったかの様に「元気で」と一言告げると僕を送り出してくれた。
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