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コンビニエンスストア【前編】
「ありがとうございました〜」
江戸川区に営業に来ていた僕は、そのコンビニエンスストアの店員を遠くから見て驚いた。
「徹人…さん?」
僕の高校の頃のサッカー部の先輩。徹人さん。
よく飲みに連れて行ってもらう仲で、こないだも連れて行ってもらったばかりだった。
なんでコンビニで働いているんだろう。
先輩は確かササモトコーポレーションの部長として働いていると言っていたはずなのに。飲みの席ではよく愚痴もこぼしている。全て僕に対して見栄を張りたいためだけの嘘だったのか?
確認しよう。少し下を向きながら店内へと入った。「いらっしゃいませ」と先輩の声が響く。
昨日飲みの席で「春樹」と呼ばれた声としっかりと重なった。奥にある飲料のコーナーに行って、レジの方を振り返る。やっぱり、あれは確実に先輩だ。信じられない。目の前にあったフルーツオレを手に取って、先輩と反対側のレジに並んで会計を済ませた。そして、息を止めながらそーっと店を出た。
高校時代に僕のスパイクが盗まれたことを思い出した。チームメイトの皆と一緒に学校中で犯人を探し回った。でも、犯人は見つからなかった。僕が三年生になり引退した後、部室をふらっと見に行くと、あの時のスパイクが後輩のロッカーから出てきた。平然とした顔をして、チームメイトの皆は嘘をついていたんだ。そう気づいた時から、僕は思うようにしていることがある。
僕が思っているより汚い世界なんだ、と。
先輩も、その内の1人だった。僕はもう騙されない。急いで買ったフルーツオレを半分くらい一気に飲んだ。あまり美味しくないその味は、この淋しい気持ちを埋めてくれることはなかった。
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