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イタリアン《後日談》
「春樹、おまたせ〜っ」
「あれ早いね?仕事もう終わったの?」
「うん。テラさんが体調崩しちゃって、私も早上がりさせてもらった」
「テラさんって、シャネルのバッグくれたマジシャンの人?」
「そう、その人。そういえば、上手く誤魔化せたの?奥さんに浮気疑われてたんでしょ?」
「見事に、上手くいきました」
「おー良かったね。結局、妹さんショートカットにさせたの?」
「うん。シャネルのバッグあげるからお願いって言ったら、ロングばっさりいってくれたよ。このバッグ趣味に合わないからあげるって言ってくれた麗奈のおかげだね」
「これはテラさんの感性に感謝だよ。まず、春樹よく気づいたよね」
「前に麗奈とご飯行った後に帰ったらさ、えっちゃんの態度おかしくて。ふと俺の棚見たら卒業アルバムの位置変わってて、これは見られたか?と思ってそこからずーっと焦ってたんだよ」
「卒業アルバムの位置なんかよく分かるね」
「まあね。あとここのイタリアンのカードの位置も変わってた。えっちゃん意外と大雑把なところあるからさ」
「春樹が細かいんだってば」
「そうかな?まあそれで確信して、後日わざと誘うようなメッセージ送って、妹呼んで、このイタリアン行って、見事作戦成功って感じ。でその中でも作戦成功に大きく働いてくれた、ある言葉があってね」
「言葉?」
「思っているより世界は平和で綺麗っていう」
「えっ」
「で、そのセリフをね、妹に言ってもらったんだよ。で、妹曰く、その時のえっちゃんの顔が気持ち良いくらいの爽やかな顔になったんだって」
「効果絶大じゃん」
「このセリフ聞いた時の俺の直感間違ってなかったって安心した。これでえっちゃん騙せるかもっていう、あの直感」
「あの、ちょっといい?」
「ん?」
「私も、その言葉聞いたことある」
「え?本当に?」
「うん。私はテラさんから聞いた。春樹と同じような状況でさ」
「なにこの偶然!すごい言葉じゃんこれ」
「凄いよこの偶然。流行ってるのかな?この言葉」
「いや、それは無いでしょ。だってこの言葉、今聞いたら全然良くないもん」
「あ、やっぱりそう思う?」
「麗奈も思ってた?」
「もちろん。ちなみにテラさんもね」
作戦がうまくいった俺の中には、なぜかえっちゃんに対する後ろめたさは消えていた。明日は朝から予定があると言う麗奈を見送って、家に帰った。
玄関前に、宅配便が届いていた。その大きなダンボールを持ち上げて、家の中へと運ぶ。
「ただいま〜。えっちゃん、なにこれ」
「あっ!これお母さんが送ってくれるって言ってたお野菜だ。見せて見せて」
無邪気に喜ぶえっちゃんは箱の中の野菜を次々と出していく。人参。ほうれん草。大根。
「見てこの白菜。おっきい」
「デカっ、これは何にする?」
「私キムチ作りたいんだよね。自家製の」
「いいね。俺も好きだから賛成」
「じゃあ早速やっちゃおうかな。レシピ色々調べちゃうから、白菜洗っててもらってもいい?」
「もちろん。任せといて」
大きくて土のついた白菜をキッチンへ持っていく。水でざーっと洗い流すと、茶色に濁った水が白菜から出てきた。
「この白菜思ってたよりも、汚れてるんだね。大丈夫?」
「畑で採ってそのままだからね。それが変な事何もしてなくて、新鮮で美味しいっていう証拠だよ」
「そうなんだ」
「春樹が思ってるよりもさ」
ふと、レシピを調べているえっちゃんが笑ったような気がした。
「お野菜も、みーんなも、汚いんだよ」
「はは、なにそれ」
ぎこちない笑い方になった。俺は白菜が水に当たり続けている音を聞きながら、送られてきたダンボールの底になにか紙が入っているのが見えた。手紙のようだ。目を凝らすと、最初の文面だけが少し見えた。
"春樹さんと美枝子へお野菜のプレゼントです"
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