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「なぜ、装置の存在を? ティアーズ様に聞いたのですか?」
「いいえ」
「充電の指示は」
「それは無事に4日後を迎えたら話すわ。ウォルフェンには」
これ以上は答えてもらえなそうだと判断してため息をついた。気持ちを切り替え飲み終わったカップを受け取る。
「じゃあ、4日後にまたお聞きします」
「……ありがとう」
「他に何かすることはありますか?」
「そうね……民にマイナスの気持ちを吸い取る水晶、あれを配って」
「まるで、あの滅びの伝承の日が来るようですね」
軽い気持ちで言ったつもりだった。けれど空気がひりつく程の緊張が満ちてウォルフェンは顔を強張らせた。セリカは淡々と指示を続ける。不自然な無表情で。
「闇使いの監視、反ティアーズ派の制圧、相談室の開放、防御魔法の使い手の集結。こんなところね」
「奥方、様……仰せのままに。けれど……何を、恐れているのですか」
セリカは苦し気に目を伏せた。
「今ティアーズはいない。そして、あの日と同じ皆既月食が来る。お願い、急いで」
鬼気迫る様子に駆けだしたウォルフェンの脳内に新たな疑問と混乱が渦巻いていく。詳しく知られていない滅びの伝承をまるで知っているような言葉。セリカは一体何者なのか。何もかもがわからないまま時間は過ぎていった。
物々しい空気の中、ウォルフェンは常と変わらずにセリカの傍らにいた。2日前、セリカの言葉を裏付けるような不穏な数値が観測され、疑問はありつつも指示はつつがなく実行された。地球の姫だから皆既月食の情報を得られるのはおかしくはないが、伝承の日と関連付けた発言はやはり説明がつかない。そんな方々の疑問をはねつけるような態度でセリカは陣頭指揮を執る。
「月が地球の影に完全に隠されたら闇の力が跳ね上がるわ。各自己の心の闇に負けないようにして。同時に闇に対応できるすべての力を月とティアーズの間に照射。闇の影響を最小限にするために尽力して」
「はっ」
「少しでも異変や不安を感じたら保護棟へ行きなさい。無理が取り返しのつかない事態を生む。各自近くの人間に気を配って」
「わかりました」
まるで知っているかのような指示。人々の不安を的確に把握し声をかけていく。
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