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セリカは民への言葉を発信するべく伝達機器の前に立った。少し青ざめた顔を両手で叩いてマシにすると穏やかに微笑んだ。
「ティアーズの民よ。あなたの大切な人を想ってください。自分を信じてください。それぞれが誰かの大切な人で在り、かけがえのない存在なのです。ティアーズは言いました。それぞれが王であり、それぞれが在るがまま生きられる世界を守るのだと。私はティアーズの妻として、その力を振るいます。ティアーズはどこにいてもこの星を守ります。それぞれが全力を尽くし、信じ、当たり前の明日が来るのだと未来を想ってください。はっきりとわからない不安や心の闇よりも、誰かへの想いと未来が強いのです」
歓声が聴こえる。セリカの声が民を奮い立たせたのだ。あれほど反発していた神官たちも心を打たれたように跪いて道を開ける。セリカは毅然と顔を上げて闇が一番集中する地点に歩みを進める。建物を出て、ぽっかりと空いたクレーターの端まで来て足を止めた。付き添いはウォルフェンだけ。
「ここは危険だから、ついて来ないでほしかったのだけど」
「僕は、奥方様の傍にいます」
「仕方ないわね」
フルパワーの照射が始まった。セリカがジッと上空を見上げ顔を険しくする。ウォルフェンの目にもわかった。中央の辺りが押されている。空気が重たい。
「外すわよ」
カシャンと音を立てて手錠が滑り落ちた。ドンッと大きな力が駆け巡った。セリカの礼服の布と髪が力に揺れる。掲げる手、上向いた首元に紋様が浮かぶのをウォルフェンは見た。神官であるウォルフェンにはそれが滅ぶ前の王族の印だとわかった。
「もう2度と、滅ぼさせはしない‼」
星が揺れるほどの大きな力が放たれた。たまらず尻もちをついたウォルフェンは圧力が消滅し、ゆっくりと光が戻っていくのに気付いた。ぐらりとセリカの体が揺らぐ。
「奥方様!」
とっさに抱き留めたセリカの首元からは紋様は消えていた。冷たくなった体を抱え、ウォルフェンは事態が落ち着いたことを確認してから救援を呼んだ。ウォルフェンにはセリカを運べなかったから。手錠はかけなかった。力を使い果たしているからと難色を示す一部は黙らせて、少しでも楽なように心を砕く。セリカは丸1日眠り続けた。
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