0人が本棚に入れています
本棚に追加
二つのサファイアが、彼女の顔をのぞきこむ。どうしてって言われても……。ルーシーはとまどってしまう。
「僕は一生懸命になれない質なんだ。何もやる気にならないし、ずっと家の中にいて、ソファの上でじっと寝ころんでいたい。そんな僕と君は正反対だ。君は今日、たくさんの量の仕事をきちんとこなした。目の前の仕事に一生懸命にならないとできないことだ。町で会ったときも、わき目も振らずに早足で歩いていた。僕には、どうしてそんなことができるのかが わからない。どこからそんな精力がわいてくるんだ? どうして君は一生懸命になれるの?」
ウィッグス通りの変人は本当に、さっぱりわからなくて、疑問に思っているらしかった。その様子を見て、ルーシーは、なんだか引っかかった気がしてならなかったが、彼の質問に対してまじめに答えた。
「わたしはね、家族のために働いているの。わたしには、お母さんと弟と妹がいる。お父さんはこの前、死んじゃった。お母さんは体が弱いからあんまり働けないし、弟と妹はまだ幼いから、働かせるより学校に行かせてあげたい。だから、わたしが働いているの。わたしは十五で、学校に行く最後の年。学校には行きたいけれど、生活していくにはお金が必要。ちょっと早いけれど、元気で大人に近いわたしが働いて、家族を支えるしかないのよ。働くのも一生懸命なのも、家族のため。家族のためだから、がんばれる」
ルーシーの話を聞いて、男は、なるほど、とつぶやいた。
「なるほど、なるほど。家族のためね。でも、家族のためとはいえ、そこまで一生懸命になれるものなのかな。どうもわからないなあ」
彼には、自分のことなんかわからないかもしれない。人はそれぞれ、置かれている状況がちがうのだから。もちろんそれは、彼と自分もそうだ。
「でも、おもしろい。興味を持った」
え? とルーシーは目をしばたかせた。反対に、ウィッグス通りの変人は、目には興奮の色が浮んでいる。
「どうしてそこまで一生懸命になれるのか、僕にはわからない。ぜひとも知りたいね」
うなずきまでしている。
「そうだ! 君、僕の助手になりたまえ!」
「え!」
男が突拍子もないことを言いだしたので、ルーシーは大声を出してしまった。彼女は少しのあいだ、彼の言葉が理解できなかった。
「急に、何を言っているんですか?」
最初のコメントを投稿しよう!