はじまりのフロランタン

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「何って、君が僕の助手になれば、僕は君を近くで観察できる。そうすれば、謎の答えもわかる」  彼は、ルーシーの返事もまたずに、よし、決まりだ! と一人で決めこんでいる。 「まってください! それはできません。わたしはスティッチャーの店に置いてもらっています。その前に、あなたが何の仕事をしているのか知りませんし」 「ああ、それはね……」  彼が彼女の問いに答えようとすると、ガタンッと強盗が押しかけてきたかのように、ものすごい音を立てて玄関のドアが開いた。 「フロランタン!」  一人の男の人が、大声をあげながら、家の中に入ってくる。男は、短くした深い茶色の髪に、あごにはひげがあり、この国、カルディア王国の宮廷勤めの人の服を着ていた。彼はつかつかと家の中を横切り、ウィッグス通りの変人の前へ来た。 「茶なんか飲んで休んでいる場合か! 仕事はやったのか、仕事は⁉」  男の人は、ウィッグス通りの変人にがなり立てる。その様子を見て、ルーシーは気が引けてしまった。 「クローブか。もちろん、仕事はやってない」 「何だと⁉」  ウィッグス通りの変人がしれっと答えると、クローブという名の男の人は、叫び声をあげた。 「おまえはどうしていつも仕事をやらないんだ」 「クローブ、まじめなのはいいけど、度が過ぎると頭の毛がなくなってしまうよ」 「おまえ……!」 そのとき、クローブは、気づいたようにまわりをぐるりと見た。 「家の中がきれいになっている。たしか、新しい家政婦が辞めたのは、二か月前じゃなかったか? 彼女が戻ってきたのか?」  その発言に、ルーシーはぴくりと反応した。二か月前⁉ ということは、この家は二か月のあいだ、そうじをしていなかったわけだ。そりゃ、あそこまで荒れはてるはずだ。 「いいや、彼女は戻ってきてない。この子がやってくれたんだ」  そう言って、ウィッグス通りの変人は、ルーシーのことを手で示した。 「それで、そのお礼に、彼女にお茶をごちそうしているんだ」  クローブは、ほう、と納得するが、ハッと我に返った。 「と、そんなことはどうでもいい。早く仕事をやってくれないか。おまえが仕事をやらなくて、こっちは困っているんだ」 「いやだよ。そんなこと、僕の知ったことじゃない。僕は、面倒なことと退屈なことが嫌いなんだ」  ウィッグス通りの変人は、当然のことだ、というように言い返した。
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