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「スティッチャーの店の者です。お直しした服を届けに来ました」
ドアの向こうから返事はこなかった。ルーシーは、もう一度ドアをたたき、呼び声をあげる。
「こんにちは、スティッチャーの店の者です。お直しした服を届けに来ました」
うんともすんとも返ってこない。
頼まれた服を届けるときは、依頼を受けたときにあらかじめ、届ける日時を伝えることになっている。だから、家に人がいないのはおかしい。たまに、約束の時間を忘れてしまうお客さんもいるので、今回ももしかしたら、忘れているのかもしれない。けれど、念のため、ルーシーはもう一度声をかけた。今度は、先ほどよりもドアを強くたたき、大きな声を張りあげる。
「こんにちは、スティッチャーの店の者です! お直しした服を届けに来ました!」
扉の奥で、何やら、ガタガタガタッと物が崩れる音がした。次いで、ドシンと大きな物が落ちたような音も。
それを聞いて、ルーシーは顔をしかめた。家の中では何が起こっているんだろう。
「ご苦労さま。鍵は開いているから、中に入ってきて」
今度は、男の人の声が聞こえてきた。
どうやら、やっと気づいたみたい。ルーシーは、その言葉のとおりに、家に勝手にあがった。
中に入って、ルーシーはびっくりして固まってしまった。というよりも、固まらざるをえなかった。なんてったって、家の中が荒れ放題の散らかり放題だったんだもの! まるで泥棒が入ったあとみたい。床は物に埋もれていて、足の踏み場がない。散らかった物たちは、ちょうどルーシーの手の大きさの高さまで積もっていて、第二の床と化している。テーブルには、食事の終わったお皿が積みあがっていて、今にも虫が寄ってきそう。暖炉には、灰がたまっていて、前に使ったときからずっとそうじをしていないらしい。
けれども、部屋にぽつんと置いてあるソファだけはきれいだった。それもそのはず、男の人が横になっていたのだから。とはいえ、背もたれには、だらしなく服が掛けられていたけれど。その男の人は、死人のようにぴたりとも動かない。うつぶせになっているため、はちみつ色の髪をしていること以外、何もわからない。
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