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やっと山までたどり着いた。さっそく仕事に取りかかる。これも地道にやっていくしかない。ルーシーは手前にある一つ目の山から取りかかった。一着目を広げると、彼の言ったとおり、シャツのボタンが取れかかっていた。彼女は、店を出る前にスティッチャーの奥さんに渡された裁縫箱を取り出し、ボタンを付け直した。二着目を広げて、ルーシーはまゆをひそめた。どこにもおかしなところはなかった。すべてのボタンはちゃんと付いているし、破けているところも、糸のほつれているところもない。自分の畑ではないけれど、しみを探してもみたが、しみだって一つもない。おかしいなあ、と思いながら、ルーシーは三着目に取りかかった。三着目には穴の開いているところがあったので、それを縫ってふさいだ。四着目を広げて、彼女はまた、おや? となった。四着目も二着目と同じように直すべきところはない。変だと思いながらも、次の服に取りかかる。その後も、つくろう必要のある服もあれば、その必要のない服もあった。
とうとう、ルーシーは、どういうことなのかわかった。なんてこと! とため息をつく。このウィッグス通りの変人は、自分で服を選り分けてさえしていないのだ。ルーシーはスティッチャーの店で働きはじめたばかりだったけれども、こんな人は見たことがない。どのお客さんも、お直しの必要のある服だけを、店に預けてくれる。彼女は肩を落としかけた。しかし、よく考えたら、これはラッキーだということに気づいた。山の中には、直すべき服とそうでない服がある。それらを分け、直すべき服だけをつくろえば、ぐっとやるべきことが少なくなる、仕事の量が減るということだ。
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