はじまりのフロランタン

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 と彼がもらした。  それはそうに決まっているじゃない。つくろえって言われたんだもの。  ルーシーは心の中でつぶやいた。 「毎年、君の店に服の修繕を頼んでいるんだけど、みんな、つくろうべき場所を見落としたり、仕事の手を抜いたりしているんだ」 男は、ルーシーに話しかけるように言った。  そりゃ、あれだけ量があれば、誰だって、見落とすこともあるし、手を抜きたくだってなる。 「しかも、今回はいつもの三倍の量だったのに」  三倍ですって⁉  付け足された言葉を聞いて、ルーシーは心の中で大声を出した。彼は広げた服を塔の頂上に戻し、再びあたりを見まわす。 「君が家の中をきれいにしてくれたの?」 「ええ。お客さんがお目覚めになるまで、やることがありませんでしたから」  ちょうどそのとき、ボタンを付けおわった。 「できましたわ」 男は、ありがとう、と言って、彼女からローブを受け取った。 「そうだ。そうじしてくれたお礼に、お茶でも飲んでいってくれないかな?」  彼は声を弾ませて、立ちあがった。 「でも……」 「一杯でいいからさ」  声をくもらせたルーシーに、男はそう言った。 ルーシーは午前中にこの家へ来ていて、今はもう、おやつの時間を過ぎている。すぐにでも店に帰らなければならなかった。けれども、男は機嫌がいいし、彼女はお腹がぺこぺこだったため、その申し出を受け入れた。それに、家中を丸ごとそうじしたんだから、それくらいのお礼を受け取ってもいいだろう。  彼は、さっき彼女がそうじした台所へ向かっていく。この家は散らかり放題で、テーブルと流しには食事の終わったお皿が積みあがっていたうえに、台所の壁には謎の物体がこびりついていた。そんなところで生活していた彼が、お茶をいれられるとは思えない。顔をしかめたルーシーを見て、男は、 「お茶くらいはいれられるよ」  と軽く笑った。少し経ってから、台所から男がやって来た。これまた高そうな、白地に金の縁どりのしてあるティーポットとティーカップとともに、この荒れはてていた家のどこから引っぱり出してきたのか、ナッツをのせてキャラメリゼしたクッキーを持ってきた。男はルーシーを、あの食器で埋めつくされていたテーブルに案内し、向かい合わせになって座った。
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