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◇
「はい、おしまい」
はっと顔を上げると、辺りはすっかり夕闇に覆われていた。
「おや」
その時、紙芝居屋の声が、すぐ傍で聞こえた。
「まだ帰らないのかい」
離れた所に置かれた自転車はなくなっている。紙芝居屋の姿もない。しかしその声は確かに、僕のすぐ背後から聞こえていた。
「何、気になることがあるって?」
僕の心を見透かしたような言葉が、心臓を強く打つ。
「この後の話? この家族がどうなったかって? さあ、どうなっただろうねえ……」
布の擦れる音が微かに響いて、僕のすぐ傍を、ゆっくりと腕の形の影が通る。
「もしかしたらその子供……百目鬼 雅紀は大きくなって、不老不死の薬を飲んで、今も生き延びているのかもしれないね。この真実を伝えるために、人間界に忍び込んで……」
公園の外灯が灯る。と同時に、背後に立つ紙芝居屋の影が、僕に重なるように鮮明に浮かび上がった。
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