9人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
セクシー忍者お蘭
突き刺すような真夏の日差しが降り注いでいた。
ここは東京都田無市の駅前から約三分の魔界野小学校だ。
窓からは、東京とは思えないほどのどかな田園地帯が並んで覗いて見えた。春には満開の桜並木が彩っていた。もちろん今は桜の季節ではない。
桜は嫌いだ。毎年桜の咲く頃になると花粉症に悩まされる。
ボクの担当する六年Z組では三時間目の授業がとり行われていた。
夏休み前、最後の授業だ。
明日は終業式なのでクラスのみんなも気が抜けている。
だが、にわかに教室内は騒然としていた。
教室の窓際にビーチパラソルを開き、折りたたみ式のサマーベッドの上に長い美脚を投げ出し美少女が横たわっていた。
カラフルな水着が目にも鮮やかだ。まるでセレブ女優みたいに遠慮なく寛いでいた。ヒサシの大きな白い女優帽をかぶっている。長い脚を投げ出して手にはワイングラスを持っていた。
当然だが中身はアルコールではない。ただのアップルジュースだ。さすがに小学生が授業中にアルコールを飲むワケにはいかない。
彼女の正体は、セクシー忍者のお蘭だ。
本名かどうかは定かではないが、伊賀の蘭丸子という名前のようだ。ふざけた名前だ。
それにしても明らかに異質だ。しかしあまりの光景に誰も口出しができない。
ザワザワと教室内が騒がしい。
「お、おい、ちょっとお蘭……」
ボクは呆れた顔で、ゆっくりと歩み寄り彼女を注意しようとした。
「ふぅ、暑いわねえェ。どうしたの血相を変えて。爺や?」
グラスに入ったアップルジュースを手にし眩しそうに窓の外を眺めた。
「あのなァ、誰が爺やだ。なにをしているんだ。お蘭」
「フフゥン、良いとこに来たわ。爺や」
笑みを浮かべ手招きをした。
「だからボクは爺やじゃないですよ。なにをやっているんですか。お蘭?」
慌ててボクは注意した。
「こんな日差しの強い日は、日焼け止めクリームを塗ってくださる?」
お蘭はお気に入りのピンク色のランドセルから日焼け止めクリームのボトルを取り出した。さり気なくボクの前へクリームのボトル容器を差し出した。
「いやいや、なんで担任のボクがお蘭に日焼け止めクリームを塗らなくっちゃならないんですか!」
ボクの名前は空牙小次郎。
一応、この六年Z組の担任教師をしていた。
最初のコメントを投稿しよう!