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その謎が解けたのは1週間後のことだった。
「こんにちは」
若い女の声だ。某ロシア大好き声優みたいな声がする。
「こんにちは。本日はどのようなことを告解されにいらしたのですか?」
「実は、告解ではないんですが、どうしても誰かに話したい気持ちが抑えられず。匿名で外に漏れないここなら話せるのではないかと思ったので」
「そうでしたか。はい、殺人などのよほどの犯罪計画を聞かされない限りはここで話した内容に関しては秘密を守りますので、ご安心ください」
「ありがとうございます。では、この国の王子が婚約破棄劇を起こしたのはご存知ですか?」
「風の噂で聞きました」
ええ、本人から聞きましたよ。やっぱ、あいつ王子だったのか。
「それでは話が早いですね。私がその王子の婚約者だったものなんです」
悪役令嬢キター!!
ワクワクが込み上げてきたが、平静を装って話を続けた。
「それは、ひどい目に遭いましたね」
「実は、私が仕組んだことなんです。司祭様は信じられないかもしれませんが、私、別の世界から転生してきたんです」
はい、俺も転生してきたので信じざるを得ないと思っていますよ。
「にわかに信じられることではありませんが、続きをお聞きしましょう」
「私は前世では高校2年生をしていました。しかし、ある日地震が起こり、それに伴う津波でおそらく死にました。次に目を覚ました時、手足、体、全てが縮んでおり、自分は記憶を持ったまま転生したことに気付きました。服といい、自分は中世の世界に生まれ変わったのだろうと最初は思ったのですが、婚約者ができた時に、これはおそらく悪役令嬢転生とかいうやつだと思いあたりました。そこで、考えたのですが、ほいほいと地位の低い女に惹かれて婚約破棄するような男に執着を持つ必要があります?」
「ないでしょうね」
自由恋愛が染み付いている現代人にとって、そんなやつはさっさと縁を切りたい不良物件でしかない。
「ただ、時には国家機密にも触れるかもしれない勉強を学べるチャンスを逃すなんて勿体無いと思って、だから、ヒロインに奪わせることにしたんです」
「面白いことを考えましたね」
「ひとつ誤算として、ヒロインも転生者だったんですけど、彼女も別に玉の輿に乗りたいわけではなかったようなので、馬鹿どもにちょっかいをかけてもらってまとめて処理した後、私と一緒に住んでいます。前世で2人とも一般人だったので、贅沢は必要ありませんし、まもなく慰謝料も払われるでしょうから、あとはパン屋でバイトでもすれば一生食べていけると思うので」
転生者同士で手を組んでいたから悪役令嬢のアリバイは完璧で、ヒロインも消えたのか。なるほどな。ヒロイン転生といえば玉の輿狙いっていう偏見があったからまさか手を組んでるとは思いもしなかった。
ようやく謎が解けたし、彼女らの人生設計もなかなか堅実だし、頑張ってほしい。
「そうでしたか。ところで、今幸せですか?」
「はい!やっぱり貴族生活は肌に合わなかったので、ようやく等身大の人間に戻れた気がしています」
「それはよかった。お幸せに」
「司祭様も。ありがとうございます」
彼女が部屋から出ていく音と同時につぶやく。
「悪役令嬢とヒロインの友情エンド、成立おめでとうございます」
「え?」
俺のメタ発言に彼女は一瞬驚いたように足を止めたが、気のせいと思ったのか、そういうことにしたのか、ややあって靴の音は遠ざかっていった。
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