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「告白いたします。私は、罪のない女性に冤罪を被せ、この国から追い出してしまいました。父に説教をされ、調査を行なったところ、全て嘘であることが判明したのですが、その時にはもう遅く……」
その日の告解に来た男はそう話し始めた。
なんだこのクズ野郎、と思うが、教会に告解しに来るやつなんぞ気が弱くて助けが欲しい人かクズしか来ないから今さらなことだ。
そんなことより、彼の声にどこか聞き覚えがあることが気になっていた。私は小さい頃から教会で育ったからこんな金持ちの知り合いはいないはずだ。
もう少し聞いたら思い出せるかもしれないと思い、詳しい話をするよう促した。
「俺には婚約者がいました。美しくて聡明で、正しく貴族な女性です。しかし、彼女はあまりにも完璧すぎて、俺は彼女といると自分が劣った存在だと思わされて息が詰まる思いでした」
彼のスキルがたくさんその女性に劣ってるとしても、彼女とて弱点はあるだろうし、2人合わせて一人前の立派な大人になれればいいのに。
頼りになる嫁いたら楽でいいのにもったいない。なんて自分だったら思うけども、まあ、そう思えなかったから今こうなっているんだろう。
「そうでしたか。大変でしたね」
とりあえずひたすら話を合わせる相槌モードを発動する。
「はい。そんな時、出会ったのがある男爵令嬢でした。自分の行動ひとつひとつに反応して喜んでくれる彼女との時間は初めて自分らしくいられる時間で、そこから、彼女といる時間が増え、婚約者を邪険に扱うようになりました」
貴族失格で草。浮気しようが自由かもしれないけどお互いに利益があるから婚約してるのに勝手に断ち切ったのかこの人。
「それで、なにがあったんですか?」
「ある日、男爵令嬢から実はあなたの婚約者にいじめられているのだ、と打ち明けられました。あなたみたいな下等な人間はこの学園にはふさわしくない、と。そこでカッとなった俺は婚約者に婚約破棄を突きつけ、国外追放を命じました。……ところが、調査の結果、その時間婚約者は常に誰かとおりました。男爵令嬢の主張をそのまま信じて真実を追求しなかった俺の責任です」
わーお、典型的な婚約破棄劇じゃん。昔よく読んでたわー!
……ん?昔??
その時、一気に知らないはずの記憶が蘇った。
あー……、わかった。俺、転生者だ。
ついでにこいつの既視感も思い出した。
某M.Mの声がするんだよ。なんかいけすかないイケメンボイスしてんな、と思ったら。
だから、総合するとおそらくこいつは乙女ゲームの王子様だ。だって、この声だもん。
ただ、冤罪だって判明してるってことはその婚約者である悪役令嬢は転生者で、なんならヒロインも転生である可能性が高いな。ありもしない罪を訴えたってことだろ?それに、こんなモブですら転生してんだし。
とはいえ、限りなく乙女ゲームの世界に近いだけのファンタジー世界だって可能性もまああるけどさ。
「なるほど。では、あなたはどうなさるご予定ですか?」
「わからない。どうすべきなのだろうか」
どうすべき?は?やるべきことなんて、即取り消して事実を周りに知らしめて、慰謝料払って土下座してでも謝罪を受け取ってもらうことだろ。他人の人生破壊しておいてなにもできないのか?
本来の司祭の仕事はただ話しを聞くだけなのだが、どうしても一言言ってやりたかったので、怒りが声に出ないように、オブラートに包んで伝えた。
「私が口を出すことではないのは重々承知の上でアドバイスをいたしますと、手を尽くして婚約者様に謝罪をすべきかと。ところで、男爵令嬢は?」
「調査の途中でどこかへ消えました。平民として生きているのかもしれません」
ん?玉の輿に乗れるかもしれないのにあっさり消えたのは不思議だな。言い訳次第では悪役令嬢の手のものだと勘違いしていたのだということにして裕福な子爵あたりと結婚することもできるはずだ。王子と比べれば落ちるだろうが、無一文の平民よりはよっぽどマシだと思う。
とりあえず、これ以上俺にできることはないのでてきとうに、失敗は人間誰でもあるから頑張れ、と丁寧な言葉で伝えて追い出した。
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