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手近のプリントの余白に、ひらがなで各行の頭文字を書き出してみる。
あなたがすき
いやいや、まさか。
僕が思うに、これは偶然が重なった結果の産物ではないだろうか。漢字で書いたらたまたまその並びになった……という感じで。相手が自分に好意を持っているだろう……なんて、そんな都合いい解釈がまかり通るのは、僕がいつもネットに垂れ流している作り話の中だけだ。
そうに決まっている。
けれど、もしも、そうでなかったなら――。
刹那、学ランに入れっぱなしだったスマートフォンが震えはじめた。おい……と思いながらそれをポケットから拾い上げる。
やはり、風花からだった。
「もしもし。どした?」
「何が、どした、よ。ばかなのあんた」
電話の向こうの風花の声は、端々がわなわなと震えている。すべてを察した僕は、敢えて落ち着いた声の調子を作りながら言った。
「え、純粋にどうしたのかな、と」
「なんでメッセージにあたしと同じ手法使ってんの」
「いやいや、僕のほうがもっと前に使ってた。少し前の小説で」
「あーもう、うるさい。今すぐ”例の場所”まで来ないと――」
「アカウントばらすって言うんだろ。……わかった、行くよ」
電話を切った。
あなたのことがすきでした。
僕が縦読みでメッセージに混ぜた言葉を読み解いた風花は、いま僕に会って何を話そうというのだろう。
「今日は最後でなく、最初である」という結論を導く方法を考えながら、僕は夜の闇に向かって家を飛び出した。
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