風花

7/7
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
 手近のプリントの余白に、ひらがなで各行の頭文字を書き出してみる。  あなたがすき  いやいや、まさか。  僕が思うに、これは偶然が重なった結果の産物ではないだろうか。漢字で書いたらたまたまその並びになった……という感じで。相手が自分に好意を持っているだろう……なんて、そんな都合いい解釈がまかり通るのは、僕がいつもネットに垂れ流している作り話の中だけだ。  そうに決まっている。  けれど、もしも、そうでなかったなら――。    刹那、学ランに入れっぱなしだったスマートフォンが震えはじめた。おい……と思いながらそれをポケットから拾い上げる。  やはり、風花からだった。 「もしもし。どした?」 「何が、どした、よ。ばかなのあんた」  電話の向こうの風花の声は、端々がわなわなと震えている。すべてを察した僕は、敢えて落ち着いた声の調子を作りながら言った。 「え、純粋にどうしたのかな、と」 「なんでメッセージにあたしと同じ手法使ってんの」 「いやいや、僕のほうがもっと前に使ってた。少し前の小説で」 「あーもう、うるさい。今すぐ”例の場所”まで来ないと――」 「アカウントばらすって言うんだろ。……わかった、行くよ」  電話を切った。  あなたのことがすきでした。  僕が縦読みでメッセージに混ぜた言葉を読み解いた風花は、いま僕に会って何を話そうというのだろう。 「今日は最後でなく、最初である」という結論を導く方法を考えながら、僕は夜の闇に向かって家を飛び出した。 /*end*/
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!