風花

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 すべてのことにはいつか終わりが来る。その意識は何に対しても抱いている。ただし今回は、望んでいたかは別として、最初からそれを終わらせることだけを目的として、僕はただ漫然と三年間規則正しく寝起きして学校に通っていた。なお、寝ていたのは家でだけか、と問われたら空に目線を泳がせるほかない。試しに自由に泳がせてみたら、服の裾のボソボソしたところを無理やり引っ張ったみたいな、なんとも寂し気な雲がひとつふたつ浮かんでいるだけだった。  甘酸っぱい思い出を口の中でもてあそぶこともなく、さほど成果を残したわけでもない。健康にいいからと無理やり飲まされた白湯みたいな味気ない高校生活が、もうすぐ終わる。なんなら僕が受験した国立大学の合格発表は、卒業式が終わった数日後だ。進路不定のまま一方的に高校生であることを終了させられるこのシステムは残酷すぎやしないだろうか。手応え的に、たぶん受かってはいると思うけれども。  学校のそばに立ち並ぶ送電線の鉄塔の下を、僕はいつも7時50分に通過する。卒業式である今日も例によって定刻にその場所を通った。最後の日くらいゆっくり行けば、と母親に言われたものの「最後の日だからって、ゆっくり行く理由もないし」と言い残して先に家を出た。決して短くない年月をかけて作り上げたルーティンを崩したくはなかった。このまま行けば7時55分には校門をくぐれ――。 「うぃー!」  声とともに背中の肩甲骨付近に痛烈な当たり判定を食らった。これが白球なら鋭い軌道で守備をすりぬけヒットは間違いなしだろうが、あいにく僕はその衝撃を一手に引き受け、前につんのめるだけだった。声の主、すなわち犯人ははっきりしている。暴行罪で私人逮捕してやろうか。 「痛ってえな、毎日毎日飽きもせず」 「若干字余りだけど、なんか俳句っぽいじゃん。……おはよ、真人(まさと)」  梅津風花(うめづふうか)は、今日も今日とて崩した着こなしの制服姿で、満面の笑みを浮かべていた。人の背中を思いっきり叩いておきながら、風花は何事もなかったかのように歩き出す。別に今日が初めてのことではないから、僕も同じように歩き出した。  残り数百メートルもないのに「いやあ、この道を歩くのもあともう少しだと思うと感慨深いねえ」なんて好き勝手を言っている風花を放置しながら、どちらかといえばクラスでも騒がしいグループにいた風花と、進学コースで宿題にまみれていた僕の世界線が重なったのはいつだったのか、あらためて考えてみた。  今となっては、どこが本当に最初だったのかは定かではない。授業? 学校祭? 委員会? まあたぶんその辺ではないだろうか。いずれにおいても、僕は風花と同じグループやペアになったことがあるし。  でも、ひとつだけ強く思い出に残っているのは、まもなく2年生になる春の日。  僕が土曜講習から帰る途中、なんとなくいつものルートを外れ、街をぶちぬくように流れる川沿いの道を歩いていた時のことだ。
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