風花

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 *  卒業式は、答辞で同級生の女子が「学校の教師と不適切な関係を結んだ挙句に捨てられた」などという、とんでもない事実を暴露して会場が騒然とした以外は無事に終わった。まあ大多数の卒業生にとっては関係ないだろうが、その告白を聞かされた在校生と、今後も学校に残り続ける教師たちの心中は決して穏やかではないだろう。  卒業アルバムの終盤の数ページに設けられた空白は、同じ進学コースの同級生や担任などの書き込みによって、4ページ中、見開き2ページのみ埋まった。書いてもらっておいて言うのもナンだが「大学行っても頑張れよ」などと、未だ進学先が決まっていないやつに向かってよく書けたな……と思う。もっとも、ページがまっさらなまま本棚に突っ込むくらいなら、中身が何であろうと埋めてもらったほうがよかった。  アルバムと記念品、卒業証書を鞄に突っ込んで、三年間通った校舎に別れを告げた。とはいえ普段の下校と変わらず、一度だけ振り返って、その後は二度と振り返らなかった。代わりに学ランのポケットに入れたスマートフォンを取り出し、指先で画面を何度かなぞる。  風花とのトーク画面が開いた。 《卒業式が終わったら、例の場所へ来い》  すぐ下には「果たし状か?」という僕の返信があるが、既読にはなれども返事はなかった。  例の場所……が僕らにとって何処を指すのかは、あの日から続く共通認識となっている。迷うことはない。強いて言うならば、なぜこんなまどろっこしい真似をするのだろう。今更からかう奴もいないだろうし、学校からそのまま引っ張っていってくれればいいのにな。  思いながらも、僕は最後の校門をくぐり、風花が待つ川沿いの土手へと向かった。
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