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「あのさ」
僕がページをほぼ埋めた頃、ずっと僕とアルバムの間で視線を行ったり来たりさせていたであろう風花が、ふいに口を開いた。
「なんだ」
「これ、描き終わったらさ」
「うん」
「あたしとバイバイしてから中身見てね」
「ここで見たらダメなのか?」
「ダメ。そしたら真人、きっとうるさそうだから」
「なんだそれ」
「いいから。……マジ、お願い」
朝に僕の背中をぶったたいた時とは違う、まるでぎゅっと胸を押さえながら話しているような声のトーンだった。気にはなれども、僕はアルバムにメッセージを書いているときと同じ姿勢のまま、風花の表情を窺うことはできなかった。
まあ、僕も今「自分の絵を描いてくれ」なんてお願いをしているし、風花だけが我儘を言っているとは思わない。なにより風花のものは、断るほどの大きな願いでもなかった。僕だって、自分が書いた物語を目の前で音読されたりしたら、その場で舌を噛み切りたくなるはずだ。
「わかったよ」
「本当に?」
「僕が風花に嘘をついたことって、何かあったか?」
「ないけど」
「なら信じろよ。最後の最後に後ろ足で砂をかけるような真似、僕はしないよ」
学校を卒業したことに対しては何も思わないけれど、風花に対して「最後」という言葉を口にするたび、なんだか隙間風が吹き込むみたいに、胸が震える心地がした。
僕がその感情を考察するより先に、風花が「描けた。もう動いていいよ」と言いながら、アルバムをぱたんと閉じた。
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