風花

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 *  お互いに手元へ戻ったアルバムを開くことのないまま、僕たちはああだこうだとくだらない話をした(風花は僕が大学デビューできる可能性を想像していた。できる確率は10%らしい。低すぎないか? ミカンの糖分じゃあるまいし)。お別れとか、そういう湿った話題にはならなかった。本当に仲がいいなら学校を出た程度で縁が切れることはない……というのが僕らの共通認識だったからだと思う。  街が茜色の夕映えに包まれる頃、僕らは家に帰った。いつもと同じ帰り道、同じ場所で「じゃあね」と手を振り合って風花と別れた。何も変わらなかった。違っていたのはせいぜい、いつもより我が家の食卓が豪華だったことくらいだ。  自分の部屋に戻って、鞄の中身を片付けていった。どうせほとんど見返すことのない卒業証書をなぜか最初に取り出して、最後の最後にようやく、卒業アルバムを手に取った。  これで全然違う風景画とかが書かれてたら笑えるな。風花は時々突拍子もないことをやるし、そんなことが起きてもおかしくない。もっとも、それはそれで構わない。最後に風花が僕のために絵を描いてくれた……という事実だけで充分だと思う。  静かにページを開くと、お、と思わず声が洩れた。  見開き2ページのうち、半分に絵が描かれていた。アルバムにペンを走らせる僕の姿と、背後に続く土手、流れる川までもが細かく描かれている。やっぱり彼女の画力は本物だった。よく考えたら自分のアルバムに自分の絵を描いてもらうなんて恥ずかしいこと極まりないが、僕は純粋に嬉しかった。  しかし僕の予想を外れていたのは、もう半分のページには絵じゃなく、メッセージが書き込まれていたことである。スペースを稼ぐためか、妙にフォントサイズが大きいのが気になった。 「あんたのお願い通り、描いてみたよ。  何のひねりもないけど、自分なりに頑張って描いたつもり。  頼まれても、知り合いの似顔絵描くのは恥ずいわ。。。笑  頑張りだけは認めてくれるといいな。ってか当然認めるよね??  すぐ会えそうな予感がするし、湿っぽいことは書かないから。  気になるので大学受かったら一番にあたしに報告せよ。絶対! 風花」  風花はすらりと読みやすい、綺麗な字を書く女子だった。その割に内容は随分とバイオレンスな空気を感じる。果たし状の次は軍令みたいな口調だし、相変わらず読めないやつだ……と二度ほどメッセージを読み返していたとき、僕はふと、ある事実に気が付いた。    漢字書きでカムフラージュされているが、これって、縦読みじゃないのか?
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