離したその手をもう一度

1/1
前へ
/1ページ
次へ
もう、今日で最後にしよう。 初めて会った三年前の春、俺はあの人に強く惹かれた。 10歳上のあの人は俺が入学した高校の男性教師で、今日までの3年間、俺がいたクラスの担任だった。 他の奴らより少しでも長く、先生の近くにいたかったから、質問があるふりをして職員室や教科準備室に入り浸っていた。 少しずつだけど、先生との距離は確実に縮まっていると思っていた。 だから告げたんだ。 先生のことが好きだって。 先生なら笑ったり流したりせず、受け止めてくれるような気がしたから。 実際、先生は受け止めてくれた。 受け止めてはくれたけど、応えてはくれなかった。それでも俺は諦めずに何度も告げた。何度も告げたが応えてもらえないまま気づけば3年近くが経ち、今日で俺はこの高校を卒業する。 当たり前のように会えていた日々は今日で終わり、明日からはもう、ここには来ることはできない。 けじめをつけよう、この気持ちに。 数日前、卒業式のあと2人きりで話がしたいと言ったら、少し逡巡した後に「準備室にいる」とだけ返ってきた。 俺は最後の告白をするために、先生が待つ準備室に向かった。
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加