第3話

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第3話

Confusion ー 3 「取り敢えず元宮先生に、話をしてみてくれませんか?勿論、青葉くんの状態を話して…いや、元宮先生の事ですから、気付いているかも知れませんね」 タバコを一本吸い終わるくらいの間はあった。実際はもっと長かったかも知れない。 深刻そうな顔をして何を考えているのかと思っていたら、単に話が本題に戻っただけだった。 (いや、流れを変え様としたのか…?まぁ、どっちでもいいけど) 「解りました。話すだけ話してみます。でもあまり期待しないで下さいね」 「例え嘘でも、そこは「頑張ります!」くらい言って下さいよ」 「いやいや…嘘は吐けませんよ…」 困った様に言うと、彼は更に念を押す様に続けた。 「執拗い様ですけど、このままだと本当に青葉くんが暴走しかねないので…宜しくお願いします」 「解りました、解りました。まぁ…本條さんの暴走を止める事が出来るのも、改心させる事が出来るのも…灯里しかいませんしね」 俺が観念した様に言うと、彼は「そうなんですよね」と言った。 「なるべく私も時間を作って、一緒に元宮先生を説得しますので、宜しくお願いします」 「相手は手強いですよ?」 「でも…聞く耳を持たない方ではないですよね。それに、今では青葉くんの一番の理解者です。私達がちゃんと話せば、前向きに考えてくれると思うんです」 「確かにそうですけど…」と、言葉を切って(だからこそ、手強いんですよ)と続けようとして止めた。 そしてまた、お互い無言になってしまった。俺はタバコに手を伸ばして、一本取り出すと火を点けて煙を吐き出し、バーテンに向かって追加の酒を注文した。 「明日は仕事お休みなんですか?」 「休みです。昨日が当直だったので、夕方まで爆睡してたんですよね。その所為かまだ眠くならないし、せっかくなら今日は、もう少し呑もうかな~って…」 俺がいつもの様に軽い感じで言うと、彼が「お付き合いしますよ」と言って、自分の分の追加を頼み始めた。 「貴方も明日は休みですか?」 「予定が午後からになったんです。なのでお昼頃に、青葉くんを迎えに行けば大丈夫です」 「相変わらず不規則ですね〜。でも、不規則なのは俺達も同じですけどね」 俺が笑いながら言うと、彼は「あの…良ければこの後…」とたどたどしく、誘う様な事を言い出した。 「相手探しが面倒になったんですか?」と、揶揄う様に言うと、彼は「ぁ…まぁ…そんなところです」と、また気になる言い方をした。 (この前も今日も…急に歯切れが悪くなったり、変な間を空けるのはなんなんだ?) 「実は誘い下手ですか?」 「だからそれは……相手によります…」 単に揶揄い半分で言ったつもりだったのに、言葉を詰まらせながら、更に歯切れを悪くして言う。 「それは…俺が顔見知りで、今は仕事仲間でもあるからですかね〜?」 「そうです…ね…。そういう事にしておいて下さい」 彼は下を向いてそう言うので、表情をハッキリ読み取る事が出来ない。でも、カウンターテーブルに置かれた手が、固く握り締められているのは解った。 この場合…何かを決意していたり、緊張している事が多い。俺は(彼はどっちなんだ?)と思いながら、なんて返事をしたらいいのか考えた。 俺はふと(ここで俺が断ったら、他の相手を探すのだろうか…)と思った。それならそれで、好きにさせておけばいい事だ。なのに、放っておけない気にさせる。それ以上に何故か、心の奥がもやもやっとした。 (いや違うな…。俺が勝手に、放っておけないと思ってるんだ。でも、どうしてそう思うんだ?) 「俺で良ければ付き合いますよ。でも正直、慣れていませんから、下手でも文句は言わないで下さいね?」 「謙遜ですか?最初の時にあれだけヤっておいて、下手も何もないでしょう?」 「恥ずかしながら言いますけど、あれは殆ど勢いでした。本能のまま…快楽のままに…って感じですね。じゃあ…これ呑んだら部屋取りますか?」 俺がそう聞くと、彼は背広の内ポケットからカードキーを取り出し、無言で俺の目の前に置いた。 「ふはっ…相手探しが面倒って言ってた割りに、用意周到じゃないですか。俺が断ってたらどうするつもりだったんです?」 「っ…その時は……勿論、他の方を探してましたよ」 彼の言葉が俺には、強がっている様な…見栄を張ってる様に聴こえた。でもきっとそれは、俺の自惚れだろうと思った。 (気を許してくれているんだと、勝手に思い込んで…挙げ句の果てにこんな事を考えるなんて…重症かな) 「眉間に皺が寄ってますよ。すみません…何か失礼な事でも言いました?」 「え…あ~、違います。単に、貴方とのこの関係を本條さんや灯里が知ったら、なんて言われるんだろうなって考えてしまったんです」 眉間に皺が寄る程、重要な事は考えていなかったのだが、誤解をさせてしまったらしい。俺は誤魔化す様に、例え話として話を振ってみた。 「あぁ…まぁ…軽蔑の類や、非難等はされないでしょうね。だけど、良くも思われないかも知れません…」 「そもそも、この関係ってなんなんですかね?セフレとも違う気がするんですけど…セフレなのかな~?」 「これから楽しもうという時に、そういう話は止めませんか?」 珍しく強気な口調で、彼はそう言った。俺は(その反応も何だかな〜)と思った。俺は笑いそうになるのを堪えながら、彼に「そうですよね」と言った。 俺はグラスに残っていた酒を、一気に呑み干してから「じゃあ、楽しみに行きましょうか」と、彼を促した。 彼は無言で頷くと、カウンターの向こうへ「お会計お願いします」と言った。 この時、どっちが払うかで少し揉めた。彼の頑固な押しに負けて、俺は素直にご馳走になる事にした。 「貴方も結構、頑固な所ありますよね」 「自覚はあります。でも…肝心な時や肝心な事には、発揮されないんですよね…」 またしても、言葉を濁して曖昧にしようとする。そういう優柔不断さも、俺だけに見せる一面なのだろうと思った。 エレベーターで部屋のあるフロアで降りて、部屋に入って荷物を置くと、ジャケットをソファの上に投げ掛けた。 「え〜と、この前も思ったんですけど…」 「なんですか?」 「一晩限りの相手とヤるには、なんか勿体ない部屋ですよね」 「それは……その…そう、たまたまです。いつもは普通のラブホですよ」 なんだか、取りようによっては言い訳にも聴こえなくもない。そんな言い方をする彼の、本心が何処にあるのか知りたくなった。 (待て待て…知りたいって何だ?そもそも…なんでこんなに、彼の事が気になるんだ?これじゃあ、まるで俺が彼の事を……) 「えっ?!」 「どうかしました?」 「あ、いや、何でもないです。あ〜、シャワー浴びます?それともお湯張りますか?」 「シャワーで良いです。それと…準備があるので、良かったら先に使って下さい」 酒の所為か、照れなのか解らないけど、薄らと赤い顔をしてそっぽを向く彼を、またしても(可愛い)と思ってしまった。 (あ〜これは確定かも知れない…って言っても、本当にそうなのか……解らないな…) 「え〜と、じゃあ…先に入って来ますね」 「どうぞ」と言って彼は、俺のジャケットと自分の背広のジャケットを、ハンガーに掛け出した。 (手慣れてる…仕事柄か?あ〜でも、神経質そうというか、普段からキチンとしてそうだな。俺は適当に置いちゃうけど…)そんな、どうでもいい事を思いながら、俺はバスルームへと入って行った。 此処へ来る前にシャワーを浴びてた所為か、サッと汗を流すだけでバスルームから出た。 出たのが早かったからか、彼は少し驚いた様に「早いですね」と言った。 彼はペットボトルの水を持っていて、俺に一本差し出すと「飲みますか?」と聞いてきた。 「じゃあ、遠慮なく頂きます」と言って、俺は水を受け取り、ボトルのキャップを開けて一口飲んだ。 「では私も入って来ます」 「待ってますね〜」と、軽い調子で言うと「寝ないで下さいね」と、笑いながら反撃された。 貼り付いた作り笑い、隙を見せない話し方。初めて会った時からそうだった。それは長年ずっと、一緒に仕事をやってきているという、本條さんの前でも崩す事のを殆ど見た事がない。 でもいつからだろう…今みたいにふわっと、自然な笑顔を見せる様になったのは…。 二人で会う時間が増えるに従って、少しづつだが自然な笑顔と、リラックスした様な…緊張感のない話し方が増えてきた。 (だからって、自分の都合のいい捉え方をしたら、後で痛い目みそう…ん?あれ…そういえば…前に、恋愛に価値を見い出せないって言ってたな……。これは…始まる前から、終わってんじゃん!) 俺はベッドの端に座ってタバコを吸いながら、悶々とああでもないこうでもないと、今度は違う内容でぐるぐると思考を巡らせていた。 どのくらい、そんな事を考えていたのか解らない。バスルームのドアが開く音が聴こえて、我に返った感じがした。 「ふふっ…起きてましたね」と、揶揄うように言われた。俺は「寝るにはまだ早いでしょう?」と、ムキになって言い返した。 ほんのり火照って赤くなった顔や、顕になった首筋や胸元。それらが、やけに色っぽく見えた。 (ついこの前までは、同性に対してこんな感情を持った事もないのに…) そんな事を思いながらタバコを消すと、彼を引き寄せて「準備とやらはしてきたんですか?」と聞いた。 「まぁ…」 照れる様に短く返事をし、照れ隠しの様にそっぽを向く。単なる勘違いかも知れないが、何だか意識されている気分になる。そういう一つ一つが無性に可愛く思えてきて、そのままベッドに押し倒した。 掴み所がなく厄介な人だと思うのに、どうしてこんなに彼の事が気になるのか、どうでもいいと思いつつ彼の事ばかり考えてしまうのか。 (答えは至ってシンプルだった。無意識とはいえ…ぐるぐる考えてた時点で、彼の事を意識してたんだな。まぁ…始まる前から終わってる訳ですが……) 「また何か考え事ですか?」 「まぁ、実にくだらない事というか…ですね。お願いがあるんです」 「私に出来る事なら協力します。けど、この状況が萎える様な事は言わないで下さいね」 「寧ろこの状況だからなんですよね〜」と、俺が言うと、彼は訝しげな顔をした。 「その…準備とやらを教えて下さい。それで、俺にもやらせてくれませんか?」 「え"っ?!あ、いや…貴方はそんな事しなくていいんです。貴方はただ、私に付き合って相手をしてくれるだけなんですから…」 「俺が、仕方なく付き合ってる…みたいな言い方は、ちょっと心外だな〜。俺は貴方なら…と思って、此処に居るんですけどね」 確かにまだ具体的に彼と、どうこうなりたいとは考えていない。それ以前に告白もしていないし、するかどうかも解らない。それらを踏まえると、誤解されていても仕方ないのかも知れない。 「ぇ…それはどういう…」 「貴方が教えてくれないなら…俺も、アプリかそういうで店で相手を探して、その人から教えて貰います」 「だから、どうしてそんな事するんですか!」と、彼はベッドの上に起き上がると、珍しく声を荒らげて言った。 「そんなの決まってるじゃないですか。俺も貴方に気持ち良くなって欲しいからですよ。準備とやらも、前戯の一つじゃないんですか?」 「いや、これは違いますよ。これだからノンケは…。あのですね、準備するのは汚れますし…第一そんな事をしたら萎えますよ」 「貴方が引きずり込んでおいて、今更ノンケも何もないでしょう?」 「あ……すみません。言い過ぎました…」 汚いと言われても、そもそもアナルはセックスする為にある訳ではなく、排泄する為の器官だ。だけど、男性同士のセックスはアナルを使う。 (まぁ、ED治療なんかの医療行為でも使われる器官ではあるけどな。まぁ…無理強いはしたくないし…) 「そうですね…そこまで言うなら諦めます。貴方が嫌がる事はしたくないですから」 すると俺が機嫌を悪くしたと思ったのか、彼は不安そうな顔で「嫌になりました…?」と、力ない声で聞いてくる。 「いや、俺が変な事を言わなければ良かったんです。俺の所為で萎えちゃったでしょう?代わりの相手…探しますか?」 「嫌です…」と言いながら、彼は首を振った。 「どうして?探すのが面倒だから?」 「あっ、そ……そうです…」 (嘘吐くの下手か…。ていうか俺の自惚れなんかじゃなくて、もしかしてこの人も俺の事…いやでも、本当に単なる自惚れかも知れないし。それに、俺もさっき自覚したばっかりだしな…) 「ん〜まぁ…今はそれでいいか…」 溜め息と一緒にボソッと言うと、彼を抱き締めた。その瞬間、彼の身体がビクッとした。俺はそれに気付かないフリをして、頬や首筋に軽く口付けをした。その度に彼の身体は反応した。 (身体は正直だよな〜。そういえば…女性っぽく扱われるのが嫌だって言う人も居るって、誰かが言ってたな) 「ふふっ…擽ったいです…。もう少し強くしても、大丈夫ですよ。身体は男なんで…」 「俺の心読んだんですか?!」 「は?」と、少し呆れた様に言われた。 (この人といい、灯里といい…この手のタイプは、真面目過ぎてノリが悪いというか…) 「心は読めませんが、遠慮してる感じがしたので…」 「なるほど。慣れてない所為か、加減が解らないんですよ…」 「あぁ…これでも頑丈ですよ。それに、この前はそんな気遣いしてなかったじゃないですか」 「あの時はね…でも今は違う……」 そう言いながら首筋に舌を這わせ、指先をなぞるように乳首まで動かすと、彼が「それは…どういう、意味…ですか?」と言う。 「教えません…。それより今はコッチに集中して欲しいな〜」 俺はそう言うと乳首に吸い付くと、舌先でその尖端を弄り出した。そして片手でバスローブの前を肌蹴けさせると、指先でもう片方の乳首を弄り始めた。 「ぅん…んっ…なんで…そこ、ばっかり…」 ぷくっとしてきた乳首を弄りながら「でも気持ち良いでしょう?」言うと、身体をピクっとさせた。 彼は今日も片腕で顔を隠そうとし、相変わらず声も抑え様とする。俺は(ほんっと、頑固だな〜)と思いながらも、ずっと乳首ばかりを弄っていた。 「んん…あ…もぅ…」と彼は、焦れったそうに呟く。 俺は乳首を弄りつつも片手で、下着の上から硬くなった彼のペニスを握った。少し擦っただけなのに、下着に滲みが現れる。 その下着を脱がせると、アナルにそっと触れた。すると、彼の身体がビクッとした。俺はジェルを垂らして、指を一本づつ挿れた。 「あ、柔らかいですね…もう二本、挿入りましたよ」 「っ…その為に、準備をっ…あっ…」 「ここでしたよね…良い所…」 「ん"っ…あぁ…」 俺は指を抜いて自分のペニスにゴムを着けると、彼の耳元で「挿入れますよ」と言った。彼は口元を抑えながら、無言で頷いた。 「ん"ん"っ……」 「ねぇ…声聴かせて下さいよ…」 嫌がる事はしたくないけど、ここまで頑固だと無理にでも聴きたくなる。 (もしかして、男の喘ぎ声なんて…とか余計な心配でもしてんのか?だとしたら、その抵抗は逆効果なんだけどな〜) 俺は彼の両腕を掴んで押さえ込むと、彼が「なっ、なに…」と、いやいやをする様に首を振る。それを無視して腰を動かす。 「あっ…ん"っ…」 そう喘いで、今度は唇を噛み締めた。俺はその唇を舐めて、キスをした。すると彼の身体がビクッとすると同時に、アナルが締まる。 「ちょっ、あんまり締め付けないで下さいよ…」 「キスなんて、するから…でしょう…」 「え、キスくらいするでしょ。それとも「好きな人としかしない」とか言うつもりですか?」 俺がそう言うと、顔を真っ赤にした。冗談半分で言っただけなのに、まさかの反応だった。 (えっ、マジで?あれだけ「遊んでます」みたいな事を言っておきながら、キスはしないなんて…。しかも「好きな人としかしない」って……あれ?恋愛感情の欠如とやらは、一体どこに行ったんだ?) 「解りましたキスはしません。その代わり声出して下さい。だいたい…声出すの我慢していたら苦しいでしょう?」 「っ……声を聴いて、萎えても知りませんよ…」 「その逆は考えないんですね…」 上目遣いで睨みながら言う彼に、そう返しながら、良い所だけを擦る様に腰を動かした。 最初から、萎えるとかヤル気が失せるとか…そんな考えは、一ミリも持ち合わせてなかった。彼のこの身体も…喘ぎ声すらも、欲しくて仕方なかった。キスが出来ないのは残念だけど。
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