ある告白、あるいは、知られざる戦い

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「どうやらすでに…いけないようだ」 人払いをした主君が私に告げた。恐れていた事態が、想定していたよりも早く起きていた。 我が一族には秘密があり、領国の巨石〝お石様〟の声を聞きことができる。〝お石様〟の予言は絶対であった。それによれば、我が国に魔がかつてない勢力で襲来するということであった。ーーそして、我が主君を侵そうとしていることも。 主君は、肩を脱ぐと皮膚が醜く爛れていた。そして、私に告げた。 「烏帽子親として太郎の元服を急ぎ執り行え」 太郎殿は我々の新たな主君となった。若くして亡くなった父君の死の真相を伝え、我が一族が特別な命を受けていることを若君にお伝えした。 魔は、大陸のあらゆる国を制圧し、いよいよ我が国にも迫り来た。すでに主君も成年となり、我が一族とともに極秘に交渉を進めていた。ーー数代前の主君が支配下に置いたかつての政治権力者たちに、彼らの持つ強力な呪法を魔の撃退のために発動させるための交渉であった。 なぜ我が一族がそんな大事に主君とともに関われるのか。それは、その呪法がはるか昔に我々の始祖たちから奪い取られたものであったからだ。穏やかに豊かに暮らしていた先祖を限られた土地土地へ追いやったのが、かつての政治権力者の一団であった。 彼らは杜撰で、楽観的で、打算的であった。昔も今もまるで変わらない。国の危機を訴える主君の書状を汚いものであるかのように扱った。 「呪法を手放したお前たちが何の用だ」 「術を解放してほしい。もともとはかような国と人の大事の際に使うものだ」 「お主たちやお主の主君のような者ども、下賤のものどもが逆らわないために用いるものであろ」 「……我々には覚悟がある。我が一族がなだめ申し上げているご始祖に地の底よりおいでいただく」 始祖たちの恨みは、古くには幾度も彼らに打撃を与え、それぞれの子孫たちがおなだめして鎮めている。我が始祖に至っては、領国の地を割いておいでになる。ーー冷ややかに笑った彼らは、しかし次の瞬間表情が引きつり、我が主君の命で呪力を用いることを了承した。 領国の地の底に始祖をおなだめ始めた最初から、我々一族も領民も、非常の際には始祖を解放して運命をともにする覚悟であることを伝えたからであった。 魔は二度、我が国を襲った。主君の命を受け、呪力は二度発現され、魔は我が国への侵略をを諦めた。 しばらくして、私は主君に呼ばれた。袖をまくった主君の腕の皮膚は爛れ、まもなく、父君とそう変わらない年齢で主君は息を引き取った。 魔は主君に侵入し、こうささやいたと言う。 「今回は失敗したが、いつかまたお前の国を襲撃する。それには、お前たちの存在が邪魔だ。……あと百年くらいはかかるだろうが、お前たちの血を根絶やしにするくらいの力は残っている」
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