Live.3

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▶ GEME START―1 > player name:hachi_888 < 人生なんて、何時、何処で、何が起こるか解らない。そんな事はとうの昔に解ってた。 しかもそれは、映画の様に決して波乱万丈な訳ではない。ごく普通の日常で起こる、ちょっとしたハプニング。そしてそれは、誰にでも起こる事なのも知っていた。 実際そういった事は、仕事やプライベートでも何回もあった。今度こそ本気でダメかも知れない……なんていう、危機的状況に陥った事だって何回もあった。 その度に辻褄を合わせたり、帳尻を合わせたり、妥協しながらも、なんとか遣り過ごしてきた。確かに、どうにもならない事だってあったけど。 (でも、今回は……これはもう……どうにも出来ないだろ……) そう思いながら、頭を抱えずにはいられなかった。 短い夏が終わって、秋の訪れを感じさせるように、街中の至る所が、ハロウィン仕様になっていた。ハロウィンが終わると、今度はあっという間にクリスマス仕様になる。 その日は、本来の映像の仕事が終わった後に、もう一つの映像の仕事をしていた。 映像と言ってもただの動画チェックだけど。 俺の本来の仕事は、映画やドラマやCM等の製作。といっても、現場に立つことは殆どなく、上がってきた映像の最終確認をするだけ。音声や露光量の調整、カメラ視点切り替えの繋ぎ、尺の調整とか……そういった、細々した微調整を行う。単なる編集作業だ。 いつかは自分でも撮りたいって願望はある。だけど今はただ、好きなモノを撮って編集してるだけで満足だった。 (なのに数年前に会社が……あのクソ社長が、気紛れで『今度VTuber部門を立ち上げようと思うんだよね』と言い出さなきゃ、こんな事にはならなかった) でもアイツの、気紛れとも取れる発案が成功するのは、昔からの事実だった。いつだってその突飛な発想に、周りも驚きはするものの、実績がある所為で、誰も異を唱える事はなかった。 その上、人を見る目は確かで、よく知りもしない……俗に言う"どこの馬の骨とも解らない"人間に声を掛けまくっては、基礎から何からを叩き込み、デビューさせるとあっという間に売れた。 声を掛ける相手もまた節操無しで、老若男女問わず。いくら身嗜みが行き届いていても、唐突に声を掛けられたら、その相手だって引くだろうに、それがそうでもないのがまた厄介なトコでもある。 (あのクソ天然人たらし。なのに俺には直接言わずに、姑息な手を使って、逃げ道を塞ぐんだからタチ悪い……) その姑息な手段で、俺は"ただのゲーム配信者"から、Krone芸能プロダクションのV部門へと掛け持ちで、半強制的に、クローネV部門の男性"VTuber第一号"として、否応なくデビューさせられた。 しかも、言うに事欠いて『映像の仕事もあって忙しいだろうから、強制するつもりはないよ。でもコッチも、何かと勉強になると思う。それに、伊吹も人を見る目は確かだろう?だから安心して任せられるんどけどな』と、笑顔でアイツはほざいた。 (単に俺に押し付けたかっただけだろ)と思った。だけど、気分転換で始めて、趣味の一つだった動画配信を、認められた気がして嬉しかったのも、悔しいけど認めざるを得ない。 「ねぇ、七種さん……やっぱりこの子しかいなくない?」という声で我に返った俺は、仕事中だった事を思い出した。 声の主は、同じくクローネのV部門に所属する、女性VTuber第一号のHiRoちゃん。HiRoちゃんの本名は『本條緋采(ヒイロ)』で、本條青葉の妹。青葉と同じく、子役までは芸能界で活躍していた。でも緋采ちゃんは、小学校卒業と共に芸能界を引退した。 何があったのかは知らない。詳しく訊きたいとも思ってないから、それはどうでもいい。でも、今こうしてVTuberとして活躍しているって事は、芸能界というか……やっぱり、こういう仕事が好きなんだなとは思う。 でも何故かこの事を、青葉には隠しているらしい。だからといって、兄妹の仲が悪い訳ではなさそうだ。だから、憶測でいうなら、緋采ちゃんが引退した理由も、VTuberである事を隠しているのも、その辺が絡んでるんだろうと思った。 俺は立場的に青葉とも面識がある上に、何故か懐かれている。そんな青葉を弟みたいに思っているからか、緋采ちゃんは妹みたいな存在。だからこの「隠し事」の状態は、ちょっと複雑。 「あ〜まぁ……久し振りにピンときたけど……」 そこで俺が言葉を詰まらせると、映像室のドアがノックされた。俺が「開いてますよ」と言うと、このセクションの統括である、野崎さんが「失礼します」と入って来た。 「2人ともお疲れ様です。どうですか?良い感じの方はいましたか?」 「あ、野崎さん。野崎さんもお疲れ様。え~と、1人だけいるにはいたんだけど……ね、七種さん?」 緋采ちゃんの振りに、どう返したらいいのか解らず、俺はモニターを観ながら黙っていた。 「その割りに七種さんが珍しくだんまりですけど、何かありました?」 「あったというか……いつもみたいに軽く調べたんだよね。まぁ、追える範囲でだけど。で、まずはその子の貼ってるリンクから、SNSのアカウントに行ったら配信専用垢だった」 「それは割りと普通なのではありませんか?」 野崎さんの言う通り、それ自体は普通。俺だって一応、専用の垢は持っている。緋采ちゃんもそうだし、他の配信者達も、大抵は持ってるから特に珍しくはない。 「でもそこから、他にも幾つか見付けたんだよ。鍵垢は中が見れないからなんとも言えないけど、それ以外の、いわゆる"通常垢"を見てたら、どうも『はちさんのガチファン』らしくて……そしたら七種さんが唸り出しちゃった」 「あぁ、そうでした。七種さんは、ファンの子とあまり関わりを持ちたくないんでしたね」 「ネット上だけなら良いけど……いや、出来れば関わりたくないけど。でもそれ以上に、リアルでは関わりたくない」と、俺はハッキリ言い切った。 「それで、七種さんが悩んでいる訳ですか……」 「そうなんだよね~。思わず2人で「この子!」って、ハモるくらい良かったんだけどね」 「活動歴はここ数年。素人っぽくて、垢抜けない感じはしたけど、センスは良いと思った。キッカケがあれば、もっと人気出そうだな〜って思ったんだけどな」 俺と緋采ちゃんがやっていたのは、数ある動画配信の中から、磨けば光りそうな原石を探して見付ける作業だった。この作業が、このセクションの中でも、一番重要で一番大変。 最初は否応なくやるされてる感が拭えなかった。でもやってみると、意外にも自分に合っている気がした。緋采ちゃんは、元よりセンスがある。青葉に似て、本質を見抜くスキルがあるからか、自然とこの作業の担当は、俺と緋采ちゃんの2人に任されていた。 「ですが久し振りに、お2人のお眼鏡に適ったんですよね……それなら、みすみす逃すのは惜しいですね」 「私もそう思う。でも、七種さんの気持ちも解るから……私はなんとも言えないかな」 (他の人達みたいに、ちゃんと線引きしてくれるなら話は別なんだけど、SNSを見る限りなんか微妙。普通の垢でポロっと、はちの事とか呟いてるし……) 配信垢とは別の通常垢で「推しの配信リアタイする」と、呟いていた。その呟きをした日付を確認すると、はちの配信日だった。遡って見てみると、度々そういう呟きを見付けてしまった。 通常垢でこれという事は、鍵垢で何を呟いている事やら。自惚れる気はさらさらないけど、こうも偶然が重なると、嫌でも気になりだす。 配信垢では、はち以外の配信者の名前を出していた。コラボ配信するとか、応援してるといった呟き。でも、不自然な程にはちの名前は出てこない。まぁ、コラボした事ないから当たり前だとは思うけど。 確かに野崎さんのいう様に、みすみす逃してしまうには惜しい原石だと、きっと緋采ちゃんも思ってるに違いない。俺だって本音ではそう思ってる。 「それなら、七種さんとはちさんが、同一人物だと気付かれない様にすればいいんじゃないですか?」 「えっ、どうやって?」 「すぐにこれといった具体策は浮かびませんが、とりあえず同じ現場にならない様にするとか……」 「それは出来るよ。でも、スタジオやミーティングルームなんかを利用する場合はどうするの?」 野崎さんの発言に、緋采ちゃんが疑問を投げ掛ける。すると、野崎さんが俺の方を向いて話し出す。 「七種さんなら、殆どのリストは見れますよね?」 「見れますよ。コラボ企画は事前に申告して貰ってるんで、スタジオやミーティングルームの使用状況も把握出来ます。けど、当日の飛び入り参加は防ぎようがないです」 「それもあるけど、実際はもっと無理な状況があるよ?」 緋采ちゃんが思い出したかの様に、考えながら口を開く。 「共有スペースでの雑談。ただの日常会話だったりするんだけど……まぁ、そういうのも楽しいからつい皆、長居しちゃうんだけどさ」 「あぁ、確かによくたむろってるよな」と、俺も思い出しながらボソっと呟いた。 「しかもコラボ企画とか複数人で収録する場合、高確率で遅刻してくる人がいる。そうすると、必然的に共有スペースに居る時間が長くなる」 「あぁ、皆さん職業とかバラバラですからね。悪気はなくても遅刻せざるを得ない場合もあるんでしょうね。それで……それの何が問題なんですか?」 「そこ通らないとスタジオに行けないんですよ」 「ん?七種さんもスタジオ使うんですか?」 「滅多に使わないです。でも時間がない時はスタジオ使ってます」 生配信やコラボ配信の撮影がある時に、本職で遅れる時がある。事前に解っていれば調整も出来るが、その時になってみないと解らない事も多い。そういう時は家に帰らず、仕方なく此処のスタジオを使う。 (出来るだけそうならない様にしてるけど、こればっかりはどうにも出来ないから仕方ない) 「え〜と、そもそもの話なんですけど……基本的に皆さんは、ご自宅等で収録というか、撮影をしているのだと思っていたんですが、そうではない事もあるんですか?」 野崎さんも畑違いのセクションで、解らない事も多いとは思ってたけど、まさかそんな基礎的な事を訊かれるとは思ってもみなかった。 「普通はそうだよ。ソロなら、自宅で撮って編集してupするからね。複数人でやる場合も、基本的に通話しながら撮影して、誰かが編集してupするんだけど、集まれる時は集まってやる時もあるね」 「でも新人の場合、そういう環境が整ってない人も多い。あと実家に住んでる人。家族の協力がないと難しかったり、家族にバレたくないって人もいる」 (俺はファンに身バレしなきゃなんでもいいんだけどな)と、何気なく言った言葉が緋采ちゃんに刺さってしまった。 「私もそんな感じかな。両親は知ってるし協力的だけど、青くんにバレたら嫌だから、ここのスタジオ使ってる。まぁ、青くん滅多に家に帰って来ないけど、万が一の為に備えて家ではやらない」 「そろそろ青葉くんに話した方がいいんじゃないですか?」 「俺もそう思う。どうせ、遅かれ早かれバレると思うけど。それに青葉の事だから、めちゃくちゃ応援してくれるんじゃない?」 青葉の反応が手に取る様に解る所為か、想像しただけで笑いが出そうになった。 「それはそう。青くんの事だから、コッチが引くくらい応援してくれると思う。それ自体は凄く嬉しいよ。でも"本條緋采"じゃなく"本條青葉の妹"っていうか……そういう雑音が嫌なんだよ」 (あぁ……緋采ちゃんはそれか) 「まぁ、それで一度は引退した訳ですからね」 「有名人の家族もホント大変だな」そう言いながら俺は、とある知り合いを思い出していた。 (そういえば、あの人自身も有名人でその妹も有名人だったな……違う意味でその両親も有名人だし) 「そういう七種さんだってある意味、有名人だからね?」と言われて、一瞬ドキっとした。 「確かに。今や押しも押されぬ、大人気VTuberのはちさんですからね」 「好きでやってる訳じゃない」 「あれ?でもこの前、楽しいって言ってなかった?」 「う〜ん……楽しいか楽しくないかで言えば、楽しい。編集作業も好きだし。だけどこういう事があると、ぶっちゃけ面倒くさい」 俺は本音を隠す事もなくありのままを言ったら、緋采ちゃんに「七種さんのそういうトコ、ちょっと残念だよね〜」と言って笑われた。 (だって実際、面倒だろ。夢女子だと夢男子とかリアコだとか……そもそも、恋愛事が面倒臭い) 「とにかくその子に一度、会ってみたいですね」 「え"っ?!」 野崎さんの唐突な発言に、俺も緋采ちゃんも驚いて、声をハモらせてしまった。 「まさか、野崎さんが会うの?」 「そうしたいのは山々ですが、このセクションのマネージャーにお願いします。私は青葉くんと、ちょっと……他の案件で手一杯ですから」 「でも結局、ここの総括もやってんでしょ?まぁ、社長に押し付けられたんでしょうけど」 「野崎さん働き過ぎじゃない?」 「好きでやってる事なので良いんです。仕事以外で青葉くんの世話を焼く事が少なくなった分、融通が利くんです。なので、私の事は気にしないで下さい」 無理にそう言っている様子はない。とはいえ、青葉の世話を焼く事が少なくなった……というのは意外だった。青葉は一昨年に倒れて、入院までした。だから退院後はそれまで以上に、過保護に拍車が掛かるかと思っていたから。それがそうじゃない。しかも、それに関して気にする様子もない。 (あの、超絶過保護っぷりはどうしたんだ?そもそも、他の案件てなんだ?)と疑問が湧いた。 どうせまたアイツの気紛れで、何か思い付いたんだろう。それにしては、野崎さんの言い方は、なんだか含みがある様にも捉えられた。 (いや待て……聴かなかった事にしよう) 「ところで、その子の連絡先は解りますか?」 「解るのは動画投稿先のDMくらい。って、本当にスカウトする気ですか?!それなら俺辞めますよ?」 「策は講じます。そもそも、七種さんはこの事務所の映像部門の社員ですから、辞めたら困りませんか?」 「だから、Vの方を辞めるって言ってるんですけどね」と、呆れたように言うと、緋采ちゃんが「それも難しいと思うよ」と、ダメ出しのように言った。 「そうですね……VTuberを辞めても社内にいる以上、何処かで会う可能性はあります。そうしたら、声でバレるんじゃないですか?」 「っ……」 「それもそうだね。編集の相談に来る人もいるし……そうなったら、話をしないで編集は出来ないからね。大体、社内にいたら、いつ此処で会うか解らない」 「会社も辞める……」とこの期に及んでもまだ、子供みたいに駄々を捏ねた。 「それも難しいと思いますよ。貴方の様な逸材を、そう簡単に社長が辞めさせるとは思えません」 (まぁ、アイツの事だからそう簡単に辞めさせてはくれないだろうけど、ワンチャンない事もない気が……ないな) 「七種さんの作る映像、めっちゃ凄いからね〜」 「ちゃんと、策は講じますから……ね?七種さんだって、磨けば光る原石を逃したくはないでしょう?」 「それはそうですけど……」 (このままだと、他の事務所に取られるかも知れない。それならまだマシだけど、最悪あの才能が埋もれてしまう……それは嫌だな) 「あ"〜ホント面倒くさい」 「あはは……まぁまぁ、そう言わずに。私も一緒に対策ってやつ考えるし、此処に来てる時はフォローもするからさ」 「緋采さんがフォローしてくれるなら安心ですね」 「だから七種さん、スカウトだけでも……ね?」 なんだかんだと良いように、2人に言いくるめられてる気がしなくもない。 「解った。その代わり、この子がデビューするとなったら、ちゃんと対策打ってくださいよ」 「解りました。ちゃんと策は講じます。ところで、その子の配信名はなんですか?」 「ゆっぴ〜」 「ゆっぴ〜さん……ゆっぴ~、ゆっぴ~……」 緋采ちゃんが言ったHNに、野崎さんが反芻するかの様に呟きながら、一瞬だけ何かを考える仕草をした。 「どうかしたんですか?まさか知り合い?」 「いえ、知り合いではありませんが、その名前に聞き覚えがある気がしたんです。ですが、思い出せなくて……」 「野崎さんが思い出せないって事は、ただの気の所為なんじゃない?」 「そうかも知れませんね。ところで緋采さん、この後は帰宅ですか?」 「もう終わりで良いんじゃない?」と俺が言うと、緋采ちゃんも「そうだね」と言った。 「ご自宅まで送りましょうか?今日はもう、青葉くんを送って行きましたから、空いてますよ」 「大丈夫。今日は両親が迎えに来てくれるから。時間まで共有ルームで暇潰ししてる」 緋采ちゃんが帰る支度をしてる後ろ姿に向かって「じゃあまた、次の収録で」と声を掛けた。 「は〜い。七種さんは、本職の残り頑張って。野崎さんもたまには、ゆっくりしなよ?」 俺と野崎さんが、交互に「お〜」「ありがとうございます」と返事をすると、緋采ちゃんは「じゃあ、お先に〜!」と、元気よく映像室から出て行った。 何気なく野崎さんを見ると、本格的に何かを考え始めた様だった。でも俺にはやっぱり、一介の配信者と野崎さんが知り合いとは思えなかった。 「野崎さん。そんな所でボーっとしてないで、帰るなら帰って下さい。俺はまだ作業が残ってるんで」 「そうでしたね。あっ、そういえばこの前の青葉くんのCM、凄く良かったです。評判も申し分ありませんでした」 そう言った野崎さんは満面の笑顔で、まさにご満悦そのものだった。 「俺は編集しただけです。あ……そういえば最近の青葉って、なんか雰囲気変わりましたね。中身はいつも通りですけど、なんていうのか……男の色気みたいなモノが、薄っすらですけど出てきてる気がします。青葉に何かありました?」 「まぁ、色々と……ありましたね」 俺は野崎さんの言い方や態度から、何となくの事は察せられた。青葉の相手というのは気にはなるけど、そこは訊くだけ野暮な気がして、あえて聴かない選択をした。 「青葉くんは七種さんに懐いてますから、もしかしたらそのうち、本人から聴く事になると思いますよ」 「正直なトコ聴きたくないけどね。でも青葉の事だから、会ったら聴かざらるを得ない……って感じになるんだろうな」 そんな会話をしていたら、野崎さんのスマホが鳴った。短い着信音だったから、きっとLINEかメールだろう。それを見た野崎さんが笑顔になった。かと思ったら、慌てた様に切り出した。 「そうかも知れませんね。あ、いつまでもお邪魔してすみません。では私も、これで失礼します」 「お疲れ様でした〜」 あの慌て様は仕事絡みではなさそうだった。どちらかというと、恋人からの連絡……といった感じ。 (まさか、あの野崎さんまで恋してんの?まぁ別に、恋愛を否定する訳じゃないけど。はあぁ〜、それにしてもクッソ面倒な事になった……) これは仕事で、割り切らないとダメな事くらい嫌でも解ってる。早いか遅いかの違いで、いつかはこういう事態が起こるかも知れない、って事も想定していた。それでも感情が追い付かない。 「とりあえず仕事だな」と呟いて、本職の方の映像をモニターに映し出した。 細かい微調整をしながら、その映像を観て、つい(俺ならココは……)と考えてしまう。監督なんて立ち位置には就きたくないけど、映像を撮る事はやっぱり好きなんだろうと、改めて思った。 その時、スマホのバイブが短く振動した。俺はスマホを開くとLINEだった。いつものゲーム仲間からの、グルチャだ。 どうやら年末年始に配信するゲームの内容と、日時を決めたいらしい。俺は自分のスケジュールを確認しつつ、画面を見ていた。 『内容は任せる。俺の都合ええのは11月の後半か12月の半ば辺り』と、素っ気ない返信が一つ届いた。伝えるだけ……という感じでそれっきり、既読はつかなくなった。 俺は(これきっと締切り前なんだろうな)と思いながら、自分も『俺も内容は任せます。日時は前もって解ってれば空けられますけど、出来れば土日のどっちかでお願いしたいです』と、返信を送った。 するとすぐに既読がついて『そんじゃ、2人の都合も考えて日程決めるな〜。決まったらまた連絡する』という返信に対して、俺はスタンプだけ送って閉じた。 (あ〜早く帰ってゲームしたい……)と思ったが、そこでまたさっきの問題に思考が戻ってしまった。 (野崎さんの事だから絶対、所属させるんだろうな。いくらこのビルが広くて、この階とVの階が違うからって、絶対に会わずに済む方法なんてあんのかよ……)
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