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Live.5
▶ STAGE―1ー2 > player name:Yuppie_07 <
「さっぶ……なに、この寒さ。異常気象にも程があんだろ」
「昨日から寒波が来てるらしいですよ」
「兄さん寒がりだからね……もう少し、着込んでくれば良かったんじゃない?」
「う"ぅ"……だって、こんなに寒いとは思わないじゃん!しかも、目的地まですぐそこだし!って、あ~もう無理!」
寒さに耐えきれずそう言って、蓮にカバンを押し付けて、残り……多分、200メートルくらいの距離を全力疾走した。
「ちょっと兄さん?!」
(すまん蓮、怜……俺は……)と思いながらも。目の前の門を大きく開け、玄関の戸を勢いよく開けると、奥のリビングの方へと駆け込んだ。
「え、あれれ?結人くん?どうしたの~?」と言って、凪沙のパートナーで、この家の住人でもある莉夏(リッカ)さんが近くに寄ってきた。でも、息が切れて返事が出来ない。
「はぁ、はぁ……」
「え〜と、ちょっと待ってて。なぎ~!凪沙~! 」
心配したように言いながら、莉夏さんがナギを呼びにキッチンへと行った。その後ろ姿を見ながら、俺は大きく深呼吸して息を整えていた。
「結人、はい白湯。で、どうしたの?不審者か変質者でもいた?」
「はぁ〜生き返る……」と落ち着いた時、玄関の方から蓮と怜の声が聴こえてきた。
「全く、兄さんったら!門も玄関も開けっ放し!」
「結人さん、急に走って行っちゃうからビックリしました」
「どういう事?」そう言って首を傾げる凪沙に、蓮が「凪沙ちゃん聴いてよ!兄さんたらさ……」と言って、凪沙と莉夏さんにさっきの事をチクリ出した。
「あはは……結人らしいといえば、結人らしいな〜」
「確かに、今日は寒い。でもここん家は暖かいから極楽」
「あひゃっ……莉夏、何その極楽って……まじでウケる」そう言って、凪沙は笑い出した。
「ん〜、暖かくて……極楽じゃ〜ってなる感じ?」
「うひゃひゃ……なんで疑問形なんだ……もう無理無理、腹筋崩壊する……」
(確かに、莉夏さんのワードセンスって独特。そして話し方もまた独特で、普通に面白い。そんでもって、ツボった時のナギの笑い方が、相変わらずヤバい)
「なぎ笑い過ぎ。それより、にぃにの手伝いはいいの?」
「おわっ、そうだった。じゃ、ちょっと行って来るね〜」
「あ、俺も手伝うよ」
俺は立ち上がると、凪沙の後を追うようにキッチンへと向かった。キッチンのテーブルの上には、所狭しと色々な料理や、下ごしらえをした後の野菜などが、ズラ〜っと並べてあった。
(うちのキッチンより広いハズなんだけど、料理とかいっぱい並んでる所為か、やたら狭く感じるな~)
そのテーブルの先にある裏戸の所に、ゆか兄が立ったまま腕組みをして咥えタバコをしていた。その姿がめちゃくちゃカッコ良く見えて、俺はゆか兄から目が離せなかった。
「結人、大丈夫なんか?」と声を掛けられて、俺は我に返った。すると凪沙がさっきの話を、ゆか兄に話し始めた。
「結人……お前アホなんか?あ~、アホなんやったわ」
「どうせアホですよ~」
「ほんま寒がりやのに、そない薄着しよって……風邪ひくやろ。凪沙、お前のパーカーかなんか貸したれや」
「いいよ~。ちょっと取ってくるね」
酷い言われようだと思ったけど、心配してくれてるのも解ってる。それに、実際(そう言われても仕方ないか)と思うくらいには、自分でも後悔するほど薄着だった。
「なんか、これ以上着たら負けな気がしたんだよね」
「お前は何と戦っとんねん」と、露骨に呆れ顔をしたゆか兄に、俺は「冬かな!」と言った。
「あはは……ほんまアホやな~」
「そんなに笑わなくてもいいじゃん」
「拗ねるな、拗ねるな」と言いながら、タバコを消したゆか兄は、手を洗って「休憩終わり。はよ作らんとな」と、大きな土鍋を取り出した。
「今日って鍋?」
「人数が多いし寒いから、簡単な物にしよ思おてな」
「やった~。じゃあ、俺も頑張って手伝いま~す」と宣言すると、タイミングよく凪沙が戻ってきた。
「はい、これ」と、差し出されたフリースのパーカーを持って、俺は袖を通すと「俺は何を手伝えばいい?」と訊いた。
「ほな、凪沙と一緒にお節作ってくれるか?」
「了解です」と言って俺は、凪沙と一緒にお節に入れる料理を作り始めた。
それから1時間くらい経った頃、ゆか兄が「鍋出来たから、晩メシにするで」と、リビングに行ってしまった。
「ナギこれ、終わらないけどどうすんの?」
「キリのいい所で止める。結人もお腹空いたでしょ?」
「ペコペコです」
「じゃあ、ここはやっておくから、にぃにと一緒にご飯の支度してきて」
「らじゃ」と言うと、俺はリビングへと向かった。
ご飯の支度をして、皆で鍋をつつきながら他愛もない話をしていた。すると、蓮が「そうだ、この前の動画観ない?」と言い出した。
「この前?」と考え出す凪沙に、怜が「れ、蓮の誕生日、の時に撮ったやつなん、ですけど……」と、緊張しているのかやけにしどろもどろで言う。
「怜が編集してくれたんだよ。ゆか兄やナギ達にも観て欲しいって言ってさ……チェックしたけど、良い出来なんだよ。さすが怜って感じ」
「まぁ、結人には無理だもんな〜」
「そこは否定しない。なんでか解んないけど、全く上手くならないんだよな」
「撮るだけなら上手いんですけど……なんでですかね?」
「それは俺が知りたいよ」
俺は開き直ったように言うと、カバンの中からDVDを取り出して、鑑賞会を始めるべくセットし始めた。
「ぅわ……な、なんか緊張というか……その、恥ずかしくなってきた」
「え、今?今更それ言う?」
「だって、い、いつもとは違うじゃないですか〜」と、本当に恥ずかしそうにしている怜に向かって、俺は「でもスタート押すけどな」と、しれっと言った。
「はい、始まり始まり〜」と言いながらスタートを押した。最初のイントロが流れて動画が始まると、皆が食い入るようにテレビ画面を観た。
最初こそ無言で観ていた皆も、ゆか兄が登場してからは盛り上がり始めた。そしてあの日と同じようなテンションで、蓮も怜も俺も話し始めた。その喧騒を遮るように、誰かのスマホが鳴り出した。
「あ、すまん。俺や……ちょお、あっちで電話して来るわ」そう言い残して、ゆか兄はキッチンの方へと歩いて行った。
「年末のこんな時間に、にぃにが電話って珍しいな~」
「ふふ……珍しいね。相手はどこの誰じゃろ?」
「余程の相手じゃない限り、電話には出ないしね~」
凪沙と莉夏さんの会話を聴いて(余程の相手?)と疑問に思った。
「でも、俺達からの電話には出るよな?」と蓮の方を見て言うと、蓮も「うん、出てくれるよ」と言った。
「それは、ここに居るうちらが特別だからじゃない?」と莉夏さんが、ニコニコしながら言った。それを聴いて何気なく怜を見ると、顔を赤くして恥ずかしそうに下を向いていた。
(う~ん……そんなこと聴いちゃうと、電話の相手が気になってくるじゃん。そもそも、ゆか兄って謎が多いから……まぁ、訊いても教えてはくれないだろうけど)
そんな話をしたり、くだらない事を考えていたら、当の本人が戻って来て「そろそろ片付けんで〜」と言った。
「え〜、まだ観終わってないよ〜」
「あ、で、でも、後30分くらいで終わりますよ」
「ほな、終わったら片付け頼むわ」ゆか兄がそう言うと、蓮が「縁人兄さんは観ないの?」と訊いた。
「俺まだ、お節作らなあかんねん。それが終わったら、観さして貰うわ」
「にぃに、ボクもう疲れたよ〜」
「じゃあ今度は、僕と怜が手伝うよ。て言っても、あんまり役に立たないと思うけどね」と言って蓮は笑った。
「あの、ぼ、ボク、頑張ります」
蓮と怜がそう言うと、ゆか兄は「ほな頼むわ」と言って、先にキッチンへと行ってしまった。その後ろ姿を見送って、俺達は動画の続きを観た。
ゆか兄がキッチンへ消えてから、しばらく経って動画が終わった。
「あ~、面白かった~。怜くん、この編集凄い!」
「うん、凄い。面白いだけじゃなくて……ほっこりする」
そう言ってまたニコニコする莉夏さんに、怜は「ほ、ホッコリ……ですか?」と言って、怜は首を傾げた。
「え~とね、気持ちが温かくなるとかいって意味だよ」
「ぽかぽかするって言えば良かったかな?」
(莉夏さん、気付くの遅いです……)
「じゃあ、そろそろ」
そう言って蓮が立ち上がると、怜も「ボクもやるよ」と立ち上がった。俺はDVDを片付ける。凪沙と莉夏さんはテーブルの上を片付けて、蓮や怜に渡していた。
「そうだ、ナギ。後で課題のデザイン見て欲しいんだよね、出来れば莉夏さんにも見て欲しいんだけど……ダメ?」
「にぃにじゃなく、うちらで良いの?」
「せっかくプロのイラレが2人居るんだから、普通に2人に聞くでしょ?」
いくらゆか兄にセンスがあるといっても、ここはやっぱりプロに見て貰うのが正解だろう。
それにゆか兄はたま〜に、斜め上の「えっ、それ何?!」っていう、変なキャラだったりよく解らないモノを「これ良い」って、言い出す時があるからセンスの無駄遣いだと思う事がある。なので、やっぱりこの2人に見て貰うべきなのだ。
「ボクはOKだけど、それって今の方が良くない?」
「そんな事言って年越しちゃったらどうすんだよ」
「カウントダウン終わったら、なぎは寝ちゃうかも知れないぞよ?」
「既に眠い……食べたら眠くなるね~」と言いながら笑う凪沙は、確かに眠そうな顔をしていた。
「ねぇ、明日の朝とかじゃダメなの?」
「ナギが起きてるなら……まぁ、それでもいいけど」
「あ〜でもそれだと、莉夏が寝てる可能性が高いな」
「なぎが起きるの早いんだよ」
2人の暢気な遣り取りを聴いてると、それこそ時間がなくなる気がしてきて、俺は「じゃあ、今!」と言った。
「あ、でも、ここじゃあちょっと……」
「あ〜結人くんが、いかがわしいこと言ってる」
「え、そういう感じ?いや~、結人ったらエッチだな~」
「ちょっと待って。課題のデザインだよ?なんでソッチの方向に行くんだよ」
(俺は単に、ゆか兄や蓮達に聴かれたくない話があったからそう言っただけで……あ〜、確かに俺の言い方は誤解を招いても仕方ないかもな。でも、そこまで変な言い方したかな?)
「ごめん、俺の言い方がおかしかった。邪魔が入るとヤダなって思っただけなんだけど、よくそこまで話を飛躍させられるよね」
「ふっ、結人……腐オタを舐めるなよ!ボク達の生きる糧は妄想力!」
「なぎと一緒にしないで欲しい」
莉夏さんの不思議は、言葉選びと独特の話し方だけではない。莉夏さんは腐女子でもなければ、姫女子でもない。その手のマンガを読んだり、そういう話はするけど特に好きって訳じゃない。
だからって、オタクじゃないのか?と訊かれたら、そういう訳でもなさそうだ。ゲームはあまりしないみたいだけど、見てるのは好きらしい。
(なのになんで凪沙と付き合ってるのか謎過ぎる。幼馴染って理由だけで、普通はそういう関係にならないよな?)
逆に凪沙は雑食オタクで、BLもGLも好きだしアニメもゲームも好き。同性愛者だけど、莉夏さんにしか恋愛感情は湧かないようだ。
(謎カップル……)
とは思うものの、なんか解らなくもない。つまり"特定の誰か"にしか、こういう気持ちを持てないというか、持たないみたいな感じ。
(けど依存してるとか、とも執着してるのとも違う、なんかそういう……あ~、難しくて上手く説明が出来ない!)
「じゃあ結人、ボク達の部屋でいい?」
「あ、うん」
そう言うと俺は、カバンを持って凪沙と莉夏さんの後ろを着いて行った。
「あ、ちょっと待って。蓮達に2人の部屋に居るって言ってくる」と言うと、ナギが「先に行ってるね」と、階段を上がって行った。
俺はキッチンに行って、蓮達にその事を話すと「頑張りや」と、笑顔のゆか兄に言われた。
(笑顔のゆか兄……あ、この笑顔は機嫌が良い時の笑顔)
「兄さん頑張って!でも、カウントダウンには間に合わせてね」
「ぼ、ボクも頑張ります!」
「ありがと。でも怜は無理すんなよ」
「はい」
「怜には僕がいるから大丈夫。縁人兄さんもいるし」という蓮に、俺は(だからそれは何アピなんだよ)と思って、つい笑ってしまった。
「じゃまた後でな~」と言うと、凪沙達の部屋へと向かう。そして、部屋の前で深呼吸をして、ドアをノックすると、中から「入って~」と、凪沙の声が聴こえた。
「お邪魔しま~す」と言いながら部屋に入ると、2人ともタブレットに何かを描いている所だった。
「仕事?」と訊くと、莉夏さんが「違う、野菜描いてる……」と言った。
(待って……野菜描くのに、なんでそんなにガチなの?)
「描けた!」
「なぎ早い……」
「結人、見て見て~」そう言って凪沙に、嬉々として見せられたイラストを見て、俺は「なにこれ……」と言った。
「冷蔵庫の奥底に忘れ去られた、萎びた白菜!」
「われも描けたから見るのじゃ……じゃ~ん!」
「え?」と、俺は言葉に詰まって何も言えなかった。
「あひゃひゃ……莉夏、それなに?あはは……」
「しおしおになったホウレンソウ」
「ぅひゃはは……ほうれん草に見えない。あひゃひゃ……」
「一体なんなの?」と訊くと、莉夏さんが「今日のお題は"冷蔵庫の中で息絶えた野菜"だった」
「は?ていうか、2人とも才能の無駄遣いじゃね?」と、呆れ気味に言うと、凪沙に「結人はバカだな~」と言われた。
「え、バカですけど?」
「まぁまぁ、結人くん。息抜きでこういう、バカみたいな絵を描くのも大事じゃぞ」
凪沙のフォローをするかのように、莉夏さんが言ったが、なんか納得いかなかった。というか、今一つピンとこなかったのは、俺がまだまだヒヨッコだからなんだろうか?
「そうそう。ひたすらガッツリ、シッカリ描いてばっかりじゃ息も詰まるし、疲れるじゃん。もちろん、仕事ではちゃんとしたイラスト描くけどね」
「でも今は休みじゃ」
「だから思い付いたお題でワンドロしてたって訳」
仕事なんだから、ちゃんとしたイラストを描くのは当たり前だと思う。休みの日でも、普通にイラストを描いてる人もいるけど、この2人は違う。
常に"いま描きたいもの"を描いている。だからこそ、色んな世界観で、色んな種類のイラストが描けるんだと思う。
(イラストにまで、自由人ならではの発想が活かされてるとは……あ、俺に足りないのってそれなのかな?)
「なるほど……なんか解った気がしなくもない……」
「えっ?」
「あのさ、ちょっと聴いて欲しい事があるんだけど」
「うん?課題のデザインとやらは?」
莉夏さんに訊かれてちょっと躊躇ったけど、今感じた事を忘れないうちに話しておきたかった。
「課題は後で!その前に聴いて欲しい」と切り出してから、クローネからスカウトがきた話をした。
「おぉ〜凄い。天下のKrone芸能プロダクションから、結人にスカウトが来るとは……見る目あるじゃん」
「結人くんがとうとう、プロのVTuberになるのか〜。是非是非、キャラデザしたいでござるな〜」
2人も蓮や怜と同じくらい喜んでくれている。しかも莉夏さんも、そう言ってくれて嬉しかった。なのに俺はまだモヤモヤしたままだ。
「で?結人は何に悩んでるの?」
「えっ、あ〜やっぱ解る?」
「われらの目は誤魔化せないぞい」
(て事は、ゆか兄にもバレバレなのかな〜)
「ん〜と……結人の事だから、決定事項なら皆の前で「俺プロのVTuberになる!」って言うでしょ?」
「でもまだ言ってないって事は、決まってないって事。でもなんで、相談相手がにぃにじゃないのか謎じゃ」
「う〜ん……ゆか兄に相談しようとは思ったけど、なんか違う気がしたんだよね」
確かにいつもなら、ゆか兄に相談してただろう。でもそうしなかったのは……違うと思った理由は、自分でもよく解らなかった。
「それで?結人が憧れてるはちさんが所属してる、クローネからのスカウトでしょ?」
「われなら即答するが?」
「そうなんだけど……俺なんかがって思ったら、スカウトされた理由とか、プロになってやっていけるのかとか、なんか色々考えちゃって。だって俺には、ゆか兄やナギや莉夏さんみたいに、周りから凄いって思われる様なモノなんてないから」
話しているうちに段々、気持ちが落ちていくのが自分でも解った。言葉にする事で余計、自分に追い打ちをかけてる気がしてきた。
「われは絵を描くのが好きだから描いてるだけぞ〜」
「ん〜ボクも同じだな。好きだから俳優やって、好きだからイラスト描いてるだけなんだけどな〜」
それはそう。3人を見てると、仕事でもゲームでも何でも、本当に好きなんだな〜っていうのが解る。
「ねぇ、さっきの「解った気がしなくもない」って何?」
「えっと、芸能界だったり配信界隈で、常に人気上位にいる人達にあって、俺にはないモノがなんなのか……って、あ〜も〜上手く説明できない!」
「凄いって思われるモノがないって……そういう事か」
配信をやってるからって、普段から話しが上手い訳じゃない。寧ろ配信してない時ほど、話し下手になる気がする。
(いや……本音を話してる時が一番話しや説明が下手かも)
「結人くんも凄いと思う」
「だよね~、こうしてスカウトの話がきた訳だしね。そもそも、ボク達にだって足りないモノってあると思うよ」
「あぁ、結人くんに足りないのは自信じゃないかにゃ?といっても、うちらにも自信とか……そういうのないけどにゃ」
「えっ?!こんだけ凄いのに自信ないの?!」
2人に「凄い」と言われるのは嬉しかったけど、俺からすれば、俺より遥かに凄い2人が「足りない」とか「自信ない」と言うのが、ちょっと簡単には信じられなかった。
「そんなのないよ。だからいつだって必死だよ~。にぃにの言う"現状で満足してたらそれ以上には行けない"ってのは、どっちの仕事をしていても意識してる。だから「ボクならもっと出来るハズ!」って言い聞かせてる」
「うちはなぎと違って絵を描く事しか出来ない。でもさっき言ったみたいに、絵を描くのが楽しくて好き。でも、もっと上手くなりたい。だから描いてるにゃ」
(俺も好きでやってるんだけど、何が違うんだろう?)
「とりあえず、やってみればいいと思うにゃ」
「そうだね。クローネから直々にスカウトがきたって事は、少なからず結人に何かを感じたからだよね?なら、やるだけやってみなよ〜。やってみないと、どうなるかなんて解らないんだし」
「でも、やっぱ無理でしたってなったら?」そう自分で口に出して、改めて自分に自信がない事に気付いた。
「その時はその時。なぎの言う通り、まずやってみないと解らないにゃ」
(俺は何が……)と思った時、莉夏さんが「そろそろ時間になるにゃ」と言った。
時計を見ると、もう少しで日付けが変わる……年が明ける頃だった。
「上手いアドバイスが出来なくてすまぬ〜。でも結人なら大丈夫だと思ってるのは本当だよ」
「うちもそう思ってるにゃ」
「そうだな、やってみないとだよな……2人共ありがとう。かなりスッキリしたわ」
俺が2人にお礼を言うと、2人は笑顔で黙って頷いた。そして凪沙が「それじゃあ下降りますか〜」と言ったので、3人で下へと降りて行った。
すると、後片付けを手伝っていた2人と、お節作りをしていたゆか兄はリビングに居た。
皆で年越しそばを食べている間に年が明けた。
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