Live.6

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▶ STAGE―1ー1 > player name:hachi_888 < 「七種さん、この映像チェックと編集お願いします」 「七種さ〜ん、これどうしたらいいですか〜?」 「七種〜ヘルプ〜」 フレックスを使って遅めの出勤をしたはいいが、映像室に入るなり、アチコチから悲鳴にも似た声が飛んで来た。 (あぁ……そういえば今日から、映画の編集作業も入るんだったな)と思い出しながら、俺は指示を出し始めた。 「チェックするやつは分類して、俺のデスクの上。それとこれは……とりあえず、今書いたこの付箋の指示通りやって。それでヘルプって何?」 これから年末年始に入る所為か、俺はいつも以上に忙しい日々を送っていた。 元々映像編集部は、それなりに忙しい部署でもある。制作会社や配給会社に委託をしているとはいえ、最終チェックはクローネがやるか、合同でやる事になっている。 『うちの事務所のタレントを起用してくれるのは有難い。でも万が一にも、タレント本人や事務所に不利益が生じる様な事は避けないとね』というクソ社長の方針で、制作会社や配給会社に全てを任せる事をしない。 確かにタレントが持つイメージは大切だ。それを守る為にも、そういう手段を採らずにはいられないんだろう。その方が安心且つ安全ではある。だからといって、何もここまで拘らなくても……とも思う。 (守るだとか何だとか……そういう事は解らないけど、まぁ、編集作業は楽しいからいいか) そして、この業界に休みはあってない様なものではあるけど、一部の部署……端的にいうなら事務職系は、ゴールデンウィークとお盆と年末年始だけは休みになる。 普段から忙しい映像編集部も、流石に年末年始は休みになるので、休み前後の作業も加わって何かと忙しくなる。そんな日々を慌ただしく過ごしていたら、あっという間に年末。 年末前の忙しい中でも、隙間時間を見付けて雑談生配信をしたり、撮っていた動画を予約機能でupしたりして、Vの活動もそれとなくこなしていた。 休み初日は流石に疲れていて、飼っている猫達の世話をして終わった。休みの日は出来るだけ何もしたくないのが本音。でも何もしない訳にもいかないのが現実であり、一人暮らしの辛い所。 溜まっていた洗濯しながら掃除を終える頃には、既に日が落ち始めていた。 (買い出し行っておかないとダメか。面倒臭いけど、食べるもんが何もない。ん~、デリでもいいけど年末年始は休みの店が多いだろうし……タバコの買い置きも危ういな。正月早々コンビニに行くのも面倒臭い……) 「仕方ない……行くか」そう声に出して着替えを済ませると、徒歩10分の大型チェーン店のスーパーへ車で向かった。 (ぅわ……めっちゃ混んでる。他行くか……いや、でも年末だから他も混んでるだろうな。時間帯ズラせば良かったか?でもそれだと……) 時間帯をズラしたら、今度は出るのが面倒になっていただろう。俺は仕方なく、駐車場への順番待ちの列に並んだ。 タバコに火を点けて何気なく窓の外を見ると、歩道を行き交う人達の殆どが、寒そうにしながらも、大きな買い物袋を下げていた。スーパーのロゴが入った大きな袋、カラフルなエコバッグが目に入る。スーパーの袋は白、エコバッグは赤や黄色、青に茶色……柄が入っているのも多かった。 (エコバッグねぇ……俺には縁はないけど、こうして見てると色も形も豊富で面白いな……ってあれ?あそこに居るのって、もしかして青葉か?) 車の中からだけど目を凝らしてよ〜く見ると、買い物袋とエコバッグを持った、笑顔の青葉が居た。そしてその視線の先には、モデル並みに綺麗な女性が並んで歩いている。 (いや待て。いくら周りとの同化スキルが高いとはいえ、流石にそれはバレるだろう。しかも隣にいる女性だって、モデルかなんかじゃねぇの?大丈夫なのかよ……新年早々から、すっぱ抜かれたらどうすんだ……) 俺はタバコを消して、スマホを取ると音楽を止めて青葉に電話を掛けた。青葉がそれに気付いたのか、女性と一緒に歩道の端に寄って荷物を置くと、スマホをポケットから取り出すのが見えた。 「七種さん、お久し振りです!!」と、大きな声で青葉が言うと、隣の女性が慌てて口元に人差し指を当てている。 (へぇ……そんな子供みたいな仕草もエロいじゃん)等と、思わず暢気な感想が出た。 「青葉お前さ、自分が超有名人て自覚ある?てか何でよりによって、こんな混んでるスーパーに来てんだよ……」 「えっ、なんで知ってんの?!七種さんもエスパーかなんかなの?」と、俺以上に暢気な事を言い出した。 (マジでコイツの天然どうにかしてくれ)と思っていたら、スマホ越しに「また馬鹿な事を……」と、溜息混じりの声が聴こえた。 (ん?顔の割りに声低めか……ますますエロいな) 「ちょうどお前がいたスーパーの、駐車場の列に並んでんだよ。何気なく外見てたらお前が見えて慌てて電話した。いくらバレないっていっても、流石に無理があるだろうが」 「でもバレなかったよ。寧ろ灯里さんの方に視線が集まってて、視線を遮るのに苦労した」 (アカリサンって誰だよ……そんなモデルいたか?) すると再びスマホ越しに「気の所為です」と、今度は素っ気ない声が聴こえた。 (何にせよ、このまま放置して大丈夫なのか?そもそも野崎さんは……あ、まさかそういう事?いや、だとしてもこのままじゃマズくないか?) 「青葉、その大荷物を持って帰るの大変だろ?寒いし……」 「俺そんなひ弱じゃない。それに、灯里さんが一緒だから寒くないよ」 (でも青葉のマンションまで……え?ちょっと遠くね?) 「もしかしてその荷物持って歩いて帰るのか?」 「そうだけど?」 「はぁ~あのさ、時間があって嫌じゃなければ乗ってけ。いやもうそうして。で、俺が買い物してる間は車の中で待ってて欲しい。青葉の事を信用してない訳じゃないけど、何かあったら困るから、俺の言うこと聞いてくれない?」 そう言って外の2人を窺うと、青葉が隣の女性に俺の提案を話している様だ。返答を待っている間に車の列が少しづつ前に動き出す。 「解った、言う事は聞く。でも買い物には付き合うって、灯里さんが言うから俺達も着いてくね?」 「は?それじゃあ意味ないだろ……」 「大丈夫だよ」と青葉が言うと、スマホ越しにまたアカリサンとやらの「本当にその自信はどこから来るんです?」と、呆れた様な声が聴こえてきた。 まぁ何にせよ、青葉の身柄を確保できた様だ。そのタイミングで運良く車も前に進み、何とか駐車する事が出来た。 「じゃあ悪いけど、5階の駐車場まで来てくれる?荷物も置かないとダメだろ?エレベーター前で待ってるから」 「解った〜」と青葉の返事を聴いて、通話を切った。 暫く待つと、エレベーターから降りて来る人集りの中に、青葉とさっきの綺麗な女性を見付けた。青葉も目ざとく俺を見付けると「七種さ〜ん」と手を振る。 「おまっ、声が大きいって……」 「ごめんなさい。会うの久し振りだから、テンション上がっちゃって」と言う青葉に(子供か)と思っていたら、連れの女性も「子供じゃないんですから、無闇に騒がないで下さい」と注意している。 「灯里さん、こちらは事務所の映像関係で、いつもお世話になってる七種さん。七種さんの作る映像は凄いんだよ。灯里さんも褒めてくれた、あのCMの編集をしたのも七種さん」 「え、凄いですね。あのCMは、そういうのに疎い俺でも、凄いと思いました。あ、不躾にすいません。初めまして、元宮と言います」 (え?この人「俺」って言った?は?男性?)だとしたら、いくら脳内とはいえ、かなり失礼な事を思っていた。 「あ、七種です……」と俺は、それ以上は何も言えなかった。 そんな俺の気まずさを察したのか、元宮さんが「よく間違われるので気にしないで下さい」と言った。青葉並に察し能力があると思ったら、青葉が「灯里さんは、俺が入院した時にお世話になった、病院の主治医の先生で、カウンセリングの先生でもあるんだよ」と言った。 確か公にはしていないが、青葉はメンタル系の病院に入院してたハズだから、そっち系の先生て事なんだろう。 (そりゃあ察し能力も高い訳だ)と思っていたら、青葉が「灯里さんは俺のだから、いくら七種さんでも手ぇ出したら怒るからね」と言った。 「人のモノに手を出すなんて、面倒な事しないって」 「俺はモノじゃないんですけど」と言われて、青葉と2人で「すいません」と謝った。 「じゃあ荷物を置いて貰って……青葉、トランク開けるから荷物入れて」 「は〜い。灯里さん、荷物貸して下さい」と、男らしい所を出している。それに対して元宮さんは「お願いします」と、事務的に言う。 (この人……灯里さんだっけ。ずっとこんな口調なのか?これが素なの?あれ?そういえばさっき……) 「元宮さんは、そういうのに疎いって言ってましたけど……それは、芸能界に疎いって事ですか?」 「そうだよ。俺が入院した時、俺の事知らなかったんだ」 「えっ、嘘だろ……」と、思わず本音が出た。すると「本当です」と、申し訳なさそうに元宮さんが言った。 「いえ……興味ない人にとっては、天下の本條青葉もただの人って事ですよ」 「悔しいから俺は、もっと上を目指すよ」 「へぇ、それはいい事だ」と笑いながら言うと、青葉は「本気だからね」と念を押す様に言った。 俺はトランクを閉めて、エレベーターの方へと歩きながら「あぁ、なるほどな……」と呟いた。 「え、何が?」と訊いてくる青葉に、俺は「青葉変わったなって思ってたからさ……その謎が解けたな〜って」 「あの、七種さんはその……反対しないんですか?偏見があるとか……」 「俺に、誰かの恋愛に口出す権利はないです。それに知ってるかも知れませんけど、この業界には珍しくないんで。そんな俺もバイですから。ただ、さっきみたいな事は……やっぱり気を付けて欲しいです」 「すみません、軽率でした」 「俺が大丈夫だからって言ったんだ。だから灯里さんは謝らないでください。七種さん、心配掛けてごめんなさい」 青葉は、ちゃんと非を認めて謝る事が出来る。青葉の長所の1つだ。青葉クラスの有名人ともなると、その地位に胡座をかいて偉そうに上から目線の人達も多い。特に若い奴がそうだ。この数年で青葉と同じ地位に着いた奴ほど、潰してやりたくなるくらいには生意気だ。 (大御所ならいさ知らず、アイツ……若い奴等に、礼儀は教えてないのかよ) 「七種さん、怒ってる?」 「え、いや悪い……全く違う事考えてたわ。あ、元宮さんはドラマや映画も観ないんですか?」 「ドラマはあまり観ないです。本條さんが観ているのを一緒に観る程度で……でも映画は好きです」 「灯里さん、立花先生のファンで、映画化した作品観てたのに、俺が出てた事に気付かなかったんだよ」と、拗ねた様に言う青葉を見て、笑いながら「なんだヤキモチか?」と揶揄った。 「だって立花先生てカッコイイっていうか、いかにも大人の男!って感じじゃん。ミステリアスな雰囲気だし……そんな人を絶対、灯里さんに紹介出来ない!」 (ん?え、あの人そんな風に思われてんの?確かにまぁ、イケメン。信用も出来るし、良い人だけど……ただの引き籠もりのゲーマーだぞ?) 「あのですね、俺は先生の作品が好きなだけで、ご本人には興味ないですよ?寧ろ知りたくないです」 「あ~そういう人いますね。そういうファンは有難いです。なんせ最近ではそういう人の方が珍しいんですよ」 そう……最近では俳優やアイドルだけに限らず、声優や歌い手やVTuberの中の人の、あれこれを知りたがるファンが多い。究極は、プライベートまでもを知りたがるファンが多いのが現状。 (マジそういうファンが厄介なんだよな) うちの事務所は徹底しているけれど、それでもヤバいと思えば、先手を打ってなんとか対応してやり過ごしている。 (あれ?確か、青葉には専属のSPみたいなのが着いたとか聴いてるけど……) 「あぁ、前の怜くんみたいな感じですか?」 (レイクン?誰?) 「う~ん、多分そうかな?でも、怜くんは実害なかったでしょ?寧ろ守ってくれてたから……」 「青葉に新しく着いた専属ってその、レイクンって子?」 「そうだよ~。すっごく良い子だよね?」 「頑張り屋さんです。ネット関連や動画でしたっけ?にも強いというので、野崎さんの薦めもあって今は、そういう専門学校に行く為に勉強しています」 それを聴いた瞬間、俺は(レイ、レイ……どっかで聴いた気がする。でもどこで?そもそも聴いたのか見たのか……う~ん思い出せない)と思った。 「七種さん、どうかした?」 「いや、その名前を知ってる様な気がしたんだけど、思い出せないから気の所為だなって思っただけ。それより早い事、買い物終わらせないとな」 そう言って俺は、鳥のササミのパックを手に取った。その時、元宮さんが反射の様に言い出した。 「あ、七種さん。そのお肉ならこっちの方がお得です。もし余っても、密封して冷凍庫で一ヶ月は保ちますよ」 「密封?それって専用の容器が必要なんじゃ……?」 「ラップで包んで空気を抜けば大丈夫ですよ。もくしはジップロックの袋でも大丈夫です。なるべく空気に触れない様にするのがコツです」 (ん?この人、お料理男子とかいうやつ?いや寧ろ主夫?) 「青葉は良いパートナーを見つけたな」と言うと、青葉は「頑張って口説いた!」と恥ずかしげもなく言い放った。 「だから声が大きい」と偶然にも、元宮さんとハモってしまった。お互いに見合って笑ってると、青葉が「2人が仲良くなるのは嬉しいけど複雑」と言って、また拗ねた。 (こういう青葉を見るのも新鮮だな。最近たまに垣間見せる色気もこれも、元宮さんのお陰ってやつか……だとしたら、野崎さんも何も言えない訳だ) 「そういえば最近、野崎さんも変わった気がするな……」と言うと、2人が「あ~」「それは……」と口にした。 「野崎さんも恋してるからだと思うよ?」 「マジか。あの、野崎さんがねぇ……え?もしかして付き合ってる?」 俺は長蛇のレジに並びながらも、好奇心が止められなかった。とはいえ、本人に聞いてる訳じゃないから「って、突っ込んで聞く事じゃないな」と、話を止めようとした。 「別に隠してる訳でもなさそうだからいいんじゃない?」 「野崎さんは隠そうとしてる気がしますよ。でも多分、アイツが隠そうとしないから、そう思うんじゃないですか?」 「あ〜確かに、関谷先生はそういうのオープンって感じ」 「ただの考えなしですよ。まだまだ世間からは、偏見の目で見られるんだってあれだけ言っても、学会やらなんやらにも参加しているのに、全く解ってないんですよあの馬鹿」 回ってきた順番で、会計をしながら2人の会話を聴いていたら、どうやら野崎さんの相手は元宮さんの同業……青葉も「先生」と言っていたから、つまり病院の先生って事になる。 そして元宮さんの話から察するに、その先生も男性なのだろう。更に言うなら、元宮さんとその先生は同期か何かなんだろうと思った。 「まぁ、野崎さんだって人並みに恋はするだろうし、そういう相手がいても良いと思う。それに、仕事はいつも通りちゃんとやってくれてるし」 そこでふと(あれ?野崎さん……レイクン……ネット関連……動画……)と、次から次へと単語が頭を過ぎった。でもなかなか自分の中で繋がらない。 そんな事を考えつつも「買い物も終わったし、送ってくわ」と言って駐車場に向かった。 「俺も車の免許欲し〜」 「青葉ならすぐに取れるだろ」 「でも行く時間がない!」と、ハッキリ言うものだから、不思議に思って「休みの日に行けばいいだろ?」と言うと、今度は「休みの日は灯里さんとの時間なの!」と、またしても恥ずかしげもなく言う。 すると元宮さんが「そういう事を、人前で言わないで下さい」と、少し怒った様に言った。 「青葉……今のは流石にデリカシーがない」と言うと、青葉は「う~、ごめんなさい」と素直に謝った。 「でもそうだな……免許あると便利なのは確か。こうした買い物とかね。あと野暮な話だけど、デートで遠出も出来る。移動中に人目も気にしなくて済む」 「だよね!」 「だけど立場的に言うと……事故を起こしたり、事故に巻き込まれる可能性もあるから、ちょっと心配ではある。青葉なら大丈夫だろう、っていう思い込みは良くないしな」 俺は車の免許を持つ、メリットとデメリットを話した。すると、青葉は真剣な顔で考え始めた。 「俺もそう思います。少しでもデメリットがあるなら、本條さんには諦めて欲しいです。ただでさえリスクを負っているんですから、これ以上は……」 (あぁ……この人はちゃんと青葉の事や、青葉の将来の事も考えてるんだな。俺とそんなに歳は変わらないんだろうけど、しっかりしてるな) 「あ~でも、それを考えるなら、やっぱり免許はあった方がいいかも知れないな。一度あのク……」 「ク?」 「え~とほら、社長に相談してみたら?」 俺は危うく「クソ社長」と言いそうになった。普段から思っていると、ふとした弾みや油断で口から出そうになる。 「ん〜じゃあ、休みが終わったら社長に相談してみる」 「条件を出した上で、許可されそうですけどね」そう元宮さんが言うと、青葉が「そうですか?」と、首を傾げながら言う。 「野崎さんもですけど、社長さんもなんだかんだ言って、本條さんには甘いという印象があります」 職業的なモノなのだろうか、この人はよく周りを見て聴いてるなと感心した。青葉にもこういう所がある。下手に嘘や誤魔化しが効かないタイプだ。 「あぁ……それは青葉が他のタレントと違って、我儘を言わないからだと思います。子供の頃からそうだったから、これくらいの我儘は寧ろ、きいてあげたくなるんじゃないかな?」 「昔から?七種さんと俺って子供の頃に会った事あった?」 「直接はないな」 そう、直接対面した訳じゃない。退屈なパーティ会場の端で、早く帰りたいと思いながら、遠くから何となく青葉を見ていただけ。それからも度々、遠くから見る事はあった。 でも初めて挨拶を交わしたのは、俺がクローネに入社してすぐの頃だ。だから青葉が覚えてないのも当たり前。 「何その言い方、気になるじゃん」 「本條さん、直接会った事がないなら、七種さんの言い方以外、他の言い方はありませんよ」 「ん~、それもそうか」 俺はさり気なく、ミラー越しに元宮さんを見ると、視線に気付いたのか、悪戯した子供みたいに笑っていた。 (あ、この人……ただの青葉タイプだと思ってたけど違うわ。どっちかというと、あの人と同じタイプかも知れない。いやでも、食えないって感じはしないから……やっぱり青葉タイプかな) 「青葉、そろそろ着くけど駐車場か?」 「それだと面倒臭いでしょ?マンションの前でいいよ」 「了解。念の為、荷物持ってエントランスまでは一緒に行くな。元宮さんは先に中に入ってて下さい」と言って、マンションの前に路駐すると、トランクの中の荷物を青葉と分担して持った。 「七種さん、休みなのにありがとう」 「マジで油断すんなよ?」と念を押す様に言うと、青葉が神妙な面持ちで話し出す。 「解ってる。俺は気にしないんだけど、灯里さんが気にするから……だから、こう見えてめちゃくちゃ気を付けてる」 「本当に、今の青葉は格好良いな。話し方とかは変わってないけど、仕草とか顔付きとか雰囲気が違う。今度暇な時、写真撮らせろよ」 「写真もいいけど、いい加減に俺の映画撮ってよ。デジカメとかのビデオ機能で撮ったやつでも良いから」 駆け出しの頃……初めて青葉のCMの編集をした。その時、その映像が全然ダメだと思った。それを当時の上司に言ったら「駆け出しが生意気言うな」と、頭ごなしに怒鳴られた事があった。 それを、どこからか聴きつけたアイツが『そこまで言うなら伊吹も、試しに撮ってみなよ。それで、伊吹の映像とあっちの映像のどっちがいいか、本人に決めて貰えばいい。青葉も見る目は確かだから』と言い出して、俺は初めてちゃんとしたスタジオで、ちゃんとした映像を撮った。 その時の映像を、青葉は今でも気に入ってくれている様で、何かにつけて俺に「短くてもいいから映画を撮って欲しい」と言う。 青葉に言われるのは嬉しいけど、映画となるとそう簡単に返事は出来ない。青葉は遊び感覚でも良いと思って言ってるんだろうけど、でも撮るなら本気で撮りたい。だけど"今の青葉"を撮るとなると、全く自信がない。 「俺には早い」 「またそんな事言って……俺が何年、言い続けてると思ってんの?」 「はいはい、前向きに検討します。それよりほら、元宮さんが待ってるぞ」 「またそうやって誤魔化す!もう諦めて撮って!約束だからね!」 「解ったから早く行け」と言って青葉の背中を押すと、俺は逃げる様に車に乗り込んだ。 (映画か……俺にはまだ……)
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