Live.7

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Live.7

▶ STAGE―1ー2 > player name:hachi_888 < 怒涛の年末進行が終わってやっと正月休みになったと思ったら、年末年始の買い出しで思わぬ事態に遭遇するも事なきを得て、これでなんとか無事に正月を迎えられそうだ。 狭いキッチンの椅子に座ってタバコを吸いながら、何となくこの前の青葉の事を思い出した。 (しかしあの青葉が恋ねぇ……どおりで最近、やっと少し色気が出てきた訳か。しかし元宮さんは、あのスペックで医者なんて勿体ないな……青葉もだけど、あの人も撮ってみたいな) 青葉は子供の頃から、その見た目だけじゃなく、演技力も抜群にあって、同世代の中では頭一つ分抜け出ていた。雑誌の写真からですら、圧倒的なオーラを放っていた。 だけど、高校を卒業して20歳を過ぎても、青葉に纏わり付くイメージはなかなか拭えなかった。端的に言うなら"子供っぽさが抜けてない"って感じ。 例え青葉でも、演技でカバー出来る事もあれば、演技だけじゃどうにもならない事もある。これに関しては、青葉の場合は圧倒的に後者だった。 それに気付いていても、俺にはどうする事も出来なかったし、何か出来たとしても、それじゃあ意味がない。自分で気付いて自分でどうにかしなければ、天下の本條青葉もそこまでだ。 (本人にとってもプレッシャーとか、ストレスだったんだろう……それで入院か。なのにあの青葉が……医者と患者て……)と、その組み合わせが、いかにも青葉が出てそうな、ドラマや映画の鉄板ネタっぽくて笑えてきた。 そんな事を考えていたら、足元で猫達が擦り寄ってきた。時計を見るともう夕方で、俺は一頻り猫達と遊ぶと餌を皿に入れた。 ついでに自分の分の夕食を作ると、リビングに運んだ。そして、借りておいたDVDをセットして、夕食を食べながら観た。思いの外面白くて夢中になっていて、観終わった頃にはそこそこの時間になっていた。 俺は慌てて食べ終えた食器を片付けて、そのままキッチンで一服。そしてコーヒーを持って再び、今度は違うDVDをセットして観始めた。映画も半分を過ぎた頃、スマホが鳴り出した。短い着信音だったが、次から次へと引っ切りなしに鳴る。 (なんだよ煩い。こんな時間に誰……)と思いながら、スマホを取ると、ロック画面にLINEの通知がずらっと並んでいた。 (マジなんなんだ……)と思って日付けをよく見ると、気付かないうちに年が開けていた。俺は面倒臭くなって未読のままで、通知音をオフにして映画の続きを観た。 そんな新年の迎え方をし、寝て起きてDVDを観るか猫達と遊ぶか……と、そんなダラダラとした数日を過していたら、早くも3日の昼になっていた。 (あ、去年イツメンで撮った動画上がるの今日じゃなかったっけ?ていうか、休みの間に何本か撮っておこうと思ってたのに、一本も撮ってねぇな……でも今そんな気分じゃないし、明日でもいっか) そう思ったところで、ふと気になってスケジュールを見ると、明日は雑談生配信する日だった事を思い出した。俺は(夜までに撮れる所まで取って、編集を後回しにするか……)と考えて、ペットボトルの水を持って、寝室の横の動画撮影用の部屋に入って行った。 面倒臭いと思いつつも、いざ始めると楽しくなってきて、動画が上がる前に一旦休憩を挟み、猫達に餌をあげたり、自分も夕食を食べたりした。 キッチンでタバコを吸いながら、上がった動画を観ていると、編集を任せている2人の上手さに素直に感嘆した。そして動画を観終わると、俺は再びゲームとPCを立ち上げて録画を再開した。 すっかり夢中になっていた様で、時計を見ると夜中の3時になっていた。俺は(とりあえずここまでかな……編集は、起きてからでも大丈夫だろ)と思いながら、全ての電源を落とすと、キッチンにゴミを持って行ってから、寝室へ行ってベッドに潜り込んだ。 結局起きたのは夕方で、生配信までには時間はあったが、編集を終わらせる事は不可能だと判断し、底を尽きてきた飲み物とタバコを補充すべく、近所のコンビニに行った。 帰宅後は風呂に入り、猫達と遊んで餌をあげて、少し早めに撮影用の部屋に行った。今日のテーマみたいなメモを確認して、PCを立ち上げると配信者用の画面を開いて、時間になるまでスマホのゲームをした。 (たまにはソシャゲの配信もいいかもな……Switchとかも面白そうなゲームあるし。たまにはマイクラやFPS以外のゲームもいいかも) なんて事を考えながらゲームをしていたら、アラームが鳴った。そろそろ時間の様だ。俺はゲームを止めて、ヘッドセットを着けると、モニターに自分のアバターを映し出した。 そして時間になると深呼吸をして、オープニングムービーを流し、雑談生配信を開始した。 年明け一発目という事もあってか、正月休みの話を軽くしていると、俺と同じ様に明日から仕事だと言うコメントや、学校だと言うコメントが多く見られた。 いつもならあまりコメントは拾わないが、何となく「コメント見てると皆も明日からなんだね。俺も頑張るから皆と頑張って」と、メッセージめいた発言をしていた。 すると凄い勢いで次から次へと投げ銭が飛んで来て、流石に驚いた。投げ銭自体は別に初めてではないけど、こんなに一気に投げられたのは過去最多かも知れないと思った。 (コメントも投げ銭に対しても、名指ししてないのに物好きだな)と思ったが、そんな事を言っては失礼なので、当たり障りなく行った。 「皆ありがとう。でも俺に大事なお金使わないで、自分の為に使ってね」と言うと更に投げ銭が飛んで来る。 そんなこんなで2時間が経って生配信を終了した。雑談生配信は平均して1時間半〜2時間くらい。今日は俺の気紛れな発言の所為か、コメントや投げ銭やらが止まらず、残り30分を事態収拾に努めた。 (最後ので一気に疲れた。暫く生配信したくねぇな……)と思う程には、今日の生配信は疲れた。画面を閉じてPCの電源を落とすと、スマホを持ってキッチンへと行く。 椅子に座ってコーヒーを飲みながら、タバコを吸って寛いでいると、スマホから通話の着信音が鳴った。 「もしもし」 「ふはっ……なんやテンション低いな。さっきの配信で疲れたんか?」 「え?観てたんすか?」 「途中からやったけどな。相変わらずモテモテやなぁ」と言って、相手は暢気に笑っている。 「もしかして、縁人さんもコメントや投げ銭しました?」 「そないな事するかいな。それやったら飯食いに誘った方が早いやろ」 「あ〜、確かにその方が縁人さんらしいっすね」と言って、笑いそうになった。 「で、何か用事でした?次の撮影の話ですか?」 「それはアイツらが仕切っとるから、俺がする訳ないやろ」 (まぁ、それもそうだな)と思った。ならどうして突然、電話をしてきたのか解らない。 「ん?じゃあ、何かありました?」 「いんや、なんもないで。単にさっきの配信観て、冷やかしとうなっただけや」 「あのな……」と、ついタメ口で呟いてしまった。 「おっと、素が出てきよった。からかい過ぎたわ」 「縁人さん相手に今更、猫被っても仕方ないし。でも、マジでそれだけの為に、電話してきたのか怪しい」 「それがマジなんだわ。たまには、お疲れさんくらい言うたろ思おてな」 「なんだそれ、明日から仕事なのに雪降らす気か?」と言って笑った。それから少しだけ、他愛もない話をして電話を切った。 (いやマジで何だったんだ。まぁ……あの人らしいけど) 気付くとさっきまでの変な疲労感が消えて、俺は(明日から仕事だし、今日はさっさと寝るかな)と、片付けを済ませて寝る事にした。 正月休みにダラダラ過ごしていた所為か、翌日の朝はアラームが鳴ってもなかなか起きれなかった。やっとの思いで起きたものの、頭の切り替えが上手く出来ず、ボーっとしつつもなんとか会社に辿り着いた。 (ラッシュだったけど電車で来て正解だった。あのまま車で来てたら、事故ってたかも知れない……正月休みだからって、流石にダラダラし過ぎた) そう思いながら映像室に着いて「おはよ〜」と声を掛けると、既に来ていた奴等が「おはようございます」とか「あけましておめでとうございます」等と声を掛けてくる。 「学生の頃から思ってましたけど、正月休みってなんで短いんですかね〜」 「まだ休みって会社もあるらしいぞ」 普段から不規則で忙しい仕事な所為か、休みに関してはやはり人それぞれ、思う所がある様だ。 「七種さんは何してました?」と聞かれ、青葉に会った事や配信の事は抜いて、ありのままに話をすると一斉に笑いが起きた。 「そんなに笑う事か?」と、デスクの上に鞄を置いて椅子に座ると、近くにいた後輩達が言う。 「笑うでしょ。まぁ、先輩らしいですけどね」 「七種さんのそういうとこ、ホント残念ですよね……」 「あ〜それ。よく言われるんだけどどういう意味?」 前から気になっていた"そういうトコ残念"とは、一体何を指して残念なのか。昨日の雑談でも正月休みの話をしていたら、似た様なコメントが割りとあった気がする。 「残念なイケメンって事ですよ」 「仕事はバリバリ出来てカッコイイんすけどね〜」 「黙ってるとたまに怖い感じしますしね」 「あ〜」と言って俺は、思わず考えてしまった。 (仕事が出来る=かっこいいってのは、何となく解る。そういう人は、この業界に限らず男女問わずいる。あとその黙ってると怖い、って言うのも何回か言われた事あるな……) 「俺そんなに人相悪いか?」と聞くと、ここぞとばかりに皆が一斉に口を開いた。 「はぁ?先輩、喧嘩売ってるんすか?」 「七種さんはイケメンですよ」 「そうそう……たまには笑えばいいのに」 「え〜笑ってんだろ?」と聞きながら、自分でも普段の生活やらなんやらを振り返ってみた。 (面白ければ笑ってると思うんだけど……大体、普通は仕事中に笑わう事ってないだろ)と、思った所で内線でVの方から呼び出しがあって、俺は「ちょっとVの方に行って来る。戻ってくるまでに、年末の続きやっとけよ〜」と言って映像室を出ると、Vのある階へと向かった。 (年末は映像の方が忙しくて、Vは任せっきりだったから、帰りに寄ろうと思ってたけど……なんかあったのか?) Vの管理室に行と、所属するVTuberの3月までのスケジュールや、スタジオやらなんやらの使用許可申請、それとコラボ配信についての申請の書類を渡された。 「本当なら休み前に渡す筈だったんですけど、七種さんも映像の方で忙しそうだったし、コッチも例年同様バタバタしてまして……すいません」 「いや、手伝えなくて悪かった。映画の編集が入ってきたから、そっちにかかりっきりなってたわ。このスケジュールは全員分?」 「七種さん以外の全員分です」 「悪い、忘れてた。書類チェックのついでにやっておくわ」 そう言うと俺は、奥のデスクに座ってPCの電源を入れた。 先に手にした施設整備使用の申請書を見ていった。施設整備といっても、殆どはスタジオの使用で、ミーティングルーム等の使用は少ない。スタジオとミーティングルームの両方を申請するのは、それこそ複数人が集まって、ノリで配信するんだろう。 両方の書類とスケジュールを照らし合わせると、やはり読みは当たっていた。その中で一つだけ他の事務所に所属するVTuberの名前もあった。 「これ、先方の事務所にOKが出てるのか確認しといて。大丈夫なら優先して許可するから」 「了解です」 逆にスタジオの空き状況が危うい。曜日こそバラバラだったが、時間帯が集中している。VTuberには学生もいれば、社会人もいる。家で撮れる奴もいれば、そうでない奴もいる。 (その為にスタジオまで作ったのはいいけどさ……まぁ、そのうち自分で機材揃えたり、引越したりして家でやる様になるんだろうけど) とは思ったが、必要最低限の機材を揃えるにも費用はかかるし、そう簡単に防音対策がされているマンションは見付からないだろうし、見付けたところで、やはり費用はかかる訳だから、おいそれと引っ越せるものでもないだろう。 (寮は防音だけど、やっぱり機材は自分で揃えないとダメだしな。そもそも寮も今、満員なんだっけ……?それもいい加減どうにかしろって話だよな) 俳優でもなんでも、それなりに売れてきて自立出来る奴等も多い。そこまでとなれば大抵の奴は寮を出て行くが、中には"敢えて"自立させない問題児も数人いる。 (それこそ自業自得だろうけど、それでリスクが出た時の事を考えると仕方ないか。ん?待て……青葉は大丈夫なのか?) 大丈夫だと判断したからこそ、一緒に住む許可も下りたのだろう。それでも元宮さんが言っていた様に、リスクはあるし、そのリスクの大きさを考えるなら、我儘をきいてあげたくなるなんてレベルじゃ済まない気がしてきた。 実際、青葉が入院した時や退院した後も、とんでもない損害を受けただろう。いくらクローネには、青葉しか所属していない訳じゃないとはいえ、損害の規模が違う筈だ。 確かに青葉が今まで稼いでいた余剰分や、退院後の巻き返しも凄い。あの時の損害なんて、あっという間にプラスに転嫁されただろう。 だけど同棲となると話は違ってくるし、その相手がまた同性で一般人となると、すっぱ抜かれた時の騒ぎは尋常じゃないと思う。 (未だに偏見も多いんだし、そう簡単に世間が受け入れてくれるとは思えない。元宮さんが言ってたリスクってそういう事だよな。でも、社長には何か考えがあるんだろうけど……アイツ今度は何を考えてんだ?) 「七種さん」と、声を掛けられて我に返った。脱線して全く違う事まで考えてしまった。 「向こうの確認取れました。OKだそうです」 「解った。まぁここの事務所は、前から付き合いもあるし……じゃあ、これを優先させるか」と言いながら、モニターに出されたミーティングルームと、スタジオのスケジュール一覧の空欄に入力していく。 「そういえば七種さん」 「ん?」 「昨日の生配信、凄かったらしいじゃないですか」 「あぁ……なんか変な疲れ方した」 (そのすぐ後、縁人さんの電話で変な疲れもなくなったけどな。でもあの電話はマジでなんだったんだ……) 「あ、この日だけスタジオいっぱいだな……どうすっかな」 「ズラして貰うしかないでしょ」 「誰かズラしてくれそうな奴は……」 改めて一覧を見ると、一番お願いしやすそうな人物の名前があった。スマホを取るとLINEを開いて、緋采ちゃんに『1月○○日のスタジオ使用時間の変更をお願いできない?』と、お願いの文章を送った。 (この時間だとまだ講義中かな……まぁ、それなら後で返信くるだろ)そう思いながら、俺はモニターに視線を戻して、さっきの入力の続きをした。 その作業が終わると、俺は「一服して来る。何かあったら連絡して」と言って、管理室から出た。 所属するタレントが増えたりなんだりして、事務所ごと今のビルに場所を変えたのは、今から10年くらい前だった。その時に、自分だって喫煙者のクセに、何故か『クリーンなイメージって大事だよね』と言って、アイツは喫煙所を設けさせたと聴いた。 (自分は社長室で吸えるからって、いい気なもんだよな。とはいえ、タバコの煙や臭いが気になる人も多いから仕方ないけど) 喫煙所はビル内に二箇所。一つは、社員専用の食堂と休憩室があるフロアの一番奥。もう一つは、総務や会議室やらがあるフロアの一番奥。映像室とVの管理室は、その二つの間にあって、時間帯によってはどちらも混む。 (あ〜、どうせならフロアごとに作ってくんねぇかな。外にもあるけど、冬は寒いし夏は暑くて行きたくねぇんだよ) 外の喫煙所は穴場だが、余程の事がない限り、利用する奴は少ない。精々、警備のオッサン連中が交代の時にたむろっているくらいだ。 (どうせなら早めの昼休みでも済ませておくかな)と、食堂のある方の喫煙所へと向かった。 一服しながらスマホを取り出して、映像室と管理室の両方に『早めに昼休憩とるから』と、連絡を入れる。それぞれから『了解です』と返事がくると、数時間ぶりのニコチン摂取を堪能した。 しばらくして、吸い終わったタバコをスタンド灰皿に捨てると、食堂に向かって日替わり定食を頼む。出来た定食のトレイを持って窓際の席に座った。 定食を食べている時に、緋采ちゃんからLINEが来て『急ぎじゃないから、次の日でも大丈夫だよ〜』という返信と、スタンプが送られて来た。俺は『ありがとう』と書かれた、猫のスタンプを送った。 休憩を終わらせる前に、再び一服しに喫煙所に寄る。すると珍しい人が喫煙所に居た。 「あれ、野崎さん。仕事中に一服なんて珍しいですね。ていうか青葉は?」 「青葉くんは社長に連れて行かれました。私も誘われたんですが、久し振りに社食が食べたくなったので断りました」 「着いて行けば良い物が食べれたかも知れないのに」と言うと、野崎さんは「七種さんだって、社長の誘いは断っていると聴いてますよ」と言って笑った。 確かにアイツからの誘いは断ってる。奴と一緒に飯を食うなんて、想像しただけで疲れるからだ。 「ん?青葉が来てるんですか?」 「そうです。お願いしたい事があると言ってました。幸いな事に、撮影まで時間があったので寄ったんです」 「青葉がお願いねぇ……あ、あれか?」 「七種さん、何か知ってるんですか?」 別に野崎さんに隠す事でもないだろうと、周りに誰もいない事を確認してから、年末に青葉と元宮さんに会った事や、車の免許が欲しいと言っていた事を話した。 「それは青葉くんから聴きました。でもそうですか……免許の事、本気だったんですね……」 「あ、知ってたんですか?」 「前にも言ってたんですよ。でもその時はまだ、薬も飲んでいましたし、それよりも仕事を優先させる気持ちの方が大きかったので、免許の話は有耶無耶になったままでした」 (割りと前から言ってたのか……だとすると、やっぱ免許が欲しい理由は、元宮さんの為なんだろうな) 「そういえば元宮さんて、綺麗な方ですね」 「えぇ、元宮先生は男性ですけど綺麗ですよね。スカウトしたくなります」 「青葉に殺されますよ」と冗談を言って笑うと、野崎さんは残念そうに話す。 「元宮先生は写真自体、嫌いなんだそうです。勿体ないですけど、仕方ないですよね。それに青葉くんが頼んでも、なかなか写真を撮らせてくれないと、いつも愚痴を言ってます」 「俺も撮りたいと思ってたんですけど、青葉で無理なら、俺が頼んでも無理そうですね」 少し残念な気もしたが、写真を撮られるのが嫌いな人も多いから、こればかりは無理強いする訳にもいかないだろう。 「あ、そうでした。2人の事は緋采さんには内緒にしておいて下さい。これは青葉くんからの伝言です」 「ええ……なんなのあの兄妹。どっちもバレるのは時間の問題なのに」 そういうと俺は、2本目のタバコに火を点けながら、心の中で(また板挟みかよ……面倒臭い)と悪態をついた。 「青葉くんはタイミングを見計らって、ご家族に話をするみたいです。ただ、元宮先生が了承するかどうかが解らないですけどね」 「青葉は紹介したい訳ですね。それだけ本気なんですね……」 「あの、誤解しないで下さい。元宮先生も本気ですよ」 俺の言い方の方が誤解を招いた様だ。野崎さんが慌てて、元宮さんの代弁をする様に言った。 「それは解ってます。だからこそ、青葉の将来の事なんかを考えた上で、安易に返事が出来ないんじゃないんですか?」 「そうなんですよね。そういう所はやはりしっかりしていて、安心というか信頼がおけます」 (最近、野崎さんが青葉離れした様に感じたのは、元宮さんの存在があってこそか……なるほどね) そんな事を考えていたら、スマホが短く鳴った。見ると管理室からで『早く戻って来て下さい』と、催促するLINEだった。 「すいません、そろそろ管理室に戻ります」 「任せっぱなしで申し訳ありません。何かあれば連絡して下さい」 「何もない方がいいんですけどね」と言って、タバコを灰皿に捨てると「じゃあまた」と言って、俺は喫煙所を出た。 そのまま管理室に戻ると、交代でスタッフが昼休憩に行った。俺は自分の予定を入力しようと、モニターに向かう。 (特にスタジオは使う予定なし。次のコラボっていつなんだっけ?)と思った。 イツメン……チャンネルの正式名称は『混合色』といい、元は縁人さんと、その友達のYouTuberさんでやっていた割りと老舗のゲーム実況チャンネル。 たまたま仕事絡みで知り合った縁人さんと俺が、映画だけじゃなく、ゲームでも意気投合して、俺がまだVになる前から仲間として参加させて貰っている。 (て言っても、縁人さん以外の2人とは会った事はないんだよな) 2人はコンビで顔出し配信ももしてるから、俺は2人の顔は解る。でも、2人は俺の顔を知らない。それは多分、縁人さんが気を利かせてくれてるのだと思う。 (そんな事より俺の予定……個人配信は固定してるから……)と、あれこれ考えながら入力していく。 混合色については解り次第。今のところ他には予定がなかったから、あっという間に入力が終わった。そのタイミングで映像室から「七種さんヘルプ〜」と、内線電話が来た。 俺は大きく伸びをすると、スタッフに「映像室に戻るから後は頼む」と、声を掛けて管理室を後にした。
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