バレンタインデー当日、大好きな幼馴染が不幸になって欲しくないから、俺は彼女の一世一代の告白の邪魔をすることにした。

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「俺は反対だ!」 「なんでよ! アタシの勝手でしょ!」  告白の定番スポット屋上。  に出る為のなんだここ? 踊り場? 踊れもしないけど五階から階段上がってすぐのところ、色々雑多なものが置いてて、その先の扉を開ければ屋上に出れる、まあ、そういうところで俺達は揉めている。  傍から見ればカップルのもめ事のように見えるかもしれないがカップルではない。  『ただの』幼馴染二人だ。  一人は、学校一の美女と言われ、ぶっちゃけ芸能事務所のスカウトにもあったことのある左山紗莉(さやま さり)。  明るい茶系のミディアムだかなんだかとにかく肩に届くかくらいの長さで、何を食えばそうなるのかってくらいツヤツヤでめっちゃいい匂いがする髪で、身体もグラビアアイドルほどではないが出るところは出てるし、何より顔が良い。  俺の自慢の幼馴染だ。  俺は彼女の幼馴染、右田友太(うだ ゆうた)。  普通だ。  長くも短くもない髪、高くも低くもない背、モテないモブ顔。  前髪が長くて周りは誰も知らなかったが実はイケメンだった、とか、人気の歌い手だったとか、才能をわざわざ隠しているとかない。  そんな物語の主人公みたいな人間じゃない。  だから、それこそ物語にあるような幼馴染と結ばれるようなことはない。  釣り合わない。  いや、昔はちょっと期待してた。  漫画みたいな人生を自分も送れるんじゃないかって。  でも、すぐに思い知る。  自分と彼女の世界の違いを。  検索したこともある。  『幼馴染と結ばれる確率』って。  2パーセントって書いてるサイトもあって、『あー、まあ、そうだよなー』とか一人で口に出して笑った。  だから、俺は諦めた。  中学校くらいに、スッパリと、諦めた。  だけど、俺は小さい頃から彼女を見てきた。  彼女は、かわいくて賢くて活発で色んな才能があるが、それは全て彼女が手に入れたいと強く願い努力して手に入れるべくして手に入れたものだ。  彼女は本当にすごい。尊敬すべき存在だ。  俺は彼女が好きだ。  彼女が好きだから、彼女に幸せを掴んでほしいから。  近くにいる間だけでも力になろう、彼女に幸せにしよう。  そう、思っていた。  だから、左山から『好きな人が居て告白しようと思う』と聞いた時、俺は手を叩いて喜んだ。  嬉しくて悲しくて寂しくて辛くて涙が零れそうになった。  けど、相手を知って俺は愕然とし、何が何でも止めなければと決意する。 「おいおい~、何揉めてるんだよ~、お前ら~」  大声で騒いでいたせいか、一人の男が階段下からこちらを見ている。  間誠人(はざま まこと)。  バスケ部のエース、イケメン、頭も良い。  正に、漫画の主人公みたいなヤツだ。  だけど、俺は、コイツが、嫌いだ。  コイツは、自分がモテるのをいいことに女に手を出しまくるクソヤローだ。  左山も狙ってる。  そして、絶対に左山を幸せにできない。 「間! お前には関係ない! こっちの話だ!」 「関係なくはないね。紗莉が嫌そうな顔してるだろ」  左山は、突然の間の登場に顔を真っ赤にして俯きがちに、ぼそぼそと喋り出す。 「お願い……間くん。今は、二人にして。あ、あと、あとで、間くんに話があるから」  左山の赤らめた顔に満足したのか間は口を吊り上げて俺の方を見て笑う。 「分かったよ。紗莉の『お願い』だ。今は、二人にしてやろう」  そう言ってるくせに、階段を上がってくる間。なんでだよ。  そう思っていたら、俺の肩をぐいと引っ張り耳元で囁く。 「テメエ……余計なこと言うんじゃねえぞ。あと、お前じゃ紗莉は釣り合わねえよ」  凄みながら言ってくる間を俺は睨み返す。  分かってる。俺が左山と釣り合わないことは。  でもな。  お前みたいなクソヤローだってそうなんだよ。  間は、睨み返す俺なんて怖くもなんともないのか『はん!』と鼻で笑うと、左山に『また、あとで』とか言いながら階段を下りてどこかへ行く。  もうマジでそのまま地獄にでも行け。  静かになった踊り場? で、俺は左山と向かい合う。 「さっきの話の続きだけど、俺はいやだ。お前が不幸になるのは目に見えてる」 「なんで?! 勝手に決めないでよ!」 「でも、お前そんな素振りなかったじゃないかよ。一体いつから……」 「多分、高校一年の春、くらいから」  俺が左山のしあわせを見届ける為に必死で勉強して合格したこの高校。  その入学式の頃を思い出す。  左山は、髪を茶色に染めた間を見て『かっこいいかも』と言ってた。  そう、言ってただけじゃないかよ……。  なのに、好きだって……嘘だろ……お前の好意に気付かずにほかの女の人と楽しそうに話をしてた奴見てなんで意識し始めることになるんだよ。 「でも、ちゃんと自覚し始めたのは、夏、クラスのみんなで海に行った時」  ああ、覚えてる。  クラスのみんなで海に遊びに行って、やっぱり左山は水着姿になっても一番注目を浴びてた。  そんな中で始まったクラス内ビーチバレー大会で左山は間とペアを組んで優勝した。間のヤツはずっと厭らしい目で見てたけど、左山は全然気づいてなくて……。  俺は決勝で二人にボコボコ負けたからよく知ってる。  何処に左山が好きになる要素があったのか俺には理解できなかった。  そのビーチバレーのあと、左山を抱きしめて鼻血出しながら倒れて、うわごとのように左山の名前を出し続けてたって聞いた。  多分左山はそのことも知らないんだろう。  そんなキモい奴なのに、好きだと思い始めるなんて頭がおかしいとしか思えない。 「ほ、ほら、秋の文化祭ミスコンで優勝して、他の学校でも話題になったくらいのお前なら、他の高校のヤツだって……!」 「ミスコン、だって……振り向いてもらいたくて、頑張った結果だよ」  元々左山はミスコンとか好んで出るタイプじゃなかった。  けれど、間に推薦された。 「左山がミスコンに出れば絶対盛り上がるし、男なら絶対、ミスコン優勝して輝く紗莉に惚れちまうだろうなあ、勿論、俺も」  そう言われた左山は、少しだけ悩んだが、翌日には出場を決めた。  ミスコンは、間と付き合っていたと噂の三年、そして、左山の対決だった。  その人は左山を目の敵にしていた。  左山が田舎に帰って会えないから。  という理由で、間が遊びで付き合ってたと知っての逆恨みだ。  ミスコンで左山が優勝するとその三年はいきなり叫んだ。 「アンタもあの男に好き勝手されてポイされるだけよ!」 「アタシは絶対に、そうなりません」  自信をもって答えた左山を見た三年は泣き崩れ、左山に謝り続けていた。  左山は校内だけでなく、見に来ていた他校の生徒や近隣の人にまで女神とか呼ばれるようになっていた。  そして、予想以上に騒ぎは大きくなり、左山は暫く登下校中、告白やナンパ、時には変態行為とか色々な目に遭う羽目になる。  全て未遂に終わったが、そんなことを何も考えずに馬鹿みたいにミスコンに出るよう背中を押した馬鹿を好きになるなんて、左山は破滅願望でもあるのかと疑ってしまう。 「冬、お前置き去りにされたことあっただろ……!」 「あ、あはは……アレね。アレは仕方ないよ……」 「仕方ないわけないだろう!」  冬のある日、左山は風邪を引いた。  前日に待ち合わせていたにもかかわらず、約束の時間になっても来なくて左山はずっと待ち続けた。  そのせいで風邪を引いた。  体調が戻り登校した次の日、間が『紗莉、風邪引いたって大丈夫か~』ってバカみたいなツラでニヤニヤしながら左山に近づいてきた。  またカッとなった俺は間に殴り掛かり、いとも簡単に組み伏せられた。  左山が泣きながら俺に対して『もうやめてよ!』って物凄い剣幕で怒ってきたことを覚えている。  その時の間のにやけ顔は忘れない。  そして、左山が風邪を引く原因となったあの日全く同じにやけ顔で間が言っていたことも。 「左山紗莉ってさ、処女でしょ? 多分、まだ恋に恋する乙女って感じなんだろうな~。だから超純情だと思うんだよな。好きな男が待ち合わせ場所に来なくても何時間も待ち続けるとかさ……」  何時間も待ち続けた。紗莉は。  来ると信じて。  それを裏切った男を、まだ好きだっていうのか。  この一年を思い出して、俺は確信する。  左山は不幸になる。  そして、俺はそれを望まない。 「もう一度言う。やめとけ」 「……! なんで、なんで、そんなこと言うの?」 「お前の為を思って言ってるんだ!」 「アタシの為って、アタシの為って言うんならそんなこと言わないでよ!」 「お前は何も分かってない!」 「アンタだって何も分かってない癖に!」  左山が絶対に譲らないという顔で俺を睨みつける。  ああ、マズい。  この顔になったコイツは本当に頑固だ。  幼馴染の俺だから知っている。  多分俺の顔は今真っ青だろう。  でも、引くわけには行かない。  俺は左山に幸せになって欲しいから!  例え、これが左山との最後の思い出になったとしても! 「卑怯でサイテーなヤツだぞ!」 「そんなことない!」 「ド変態のスケベヤローだ!」 「そ、そうなの? ……で、でも! 好きなんだもん!」 「お前を幸せになんてできない!」 「してほしいなんて思わないよ! アタシが! しあわせにしてあげたいんだから!」  俺がトドメの一言のつもりで言った言葉も聞いてくれない。  言葉に詰まっていると、左山は、泣き出した。 「なんでよ……なんで、駄目なの。好きなの……好きじゃダメなの? アタシが誰を好きになろうと……アタシの勝手でしょ……例え、ダメでも、告白、くらいさせてよ……気持ち、つたえさせてよぉお……」  泣き出す左山を見て俺もまた悲しくてたまらなかった。  俺も、なんで分かってくれないのか、と。  なんで?  なんで分かってくれないんだ。  俺が。  一番近くに居た俺が、お前のことを一番知ってる俺が。  お前の幸せを一番願ってる俺が言ってるんだぞ。  なんで分かってくれない?  ……釣り合わないんだよ!  かわいくて、賢くて、スポーツも出来て、努力もして、そんな凄いお前はもっといい男を見つけるべきなんだ! 「うるさい!」  声に出てたみたいだ。  顔を真っ赤にしてこちらを睨む左山がいた。  ずっと傍にいたけど、今まで見たことない顔で、俺を睨んでいた。 「もう決めた! 絶対アタシは告白する! アンタになんといわれても」 「お前、無茶苦茶だ……もう無茶苦茶だよ!」 「誰のせいだと思ってるのよ!」 「お前が告白するって俺に言うから!」 「アンタが誰に告白するか教えてくれって言うから!」 「普通言うか!?」 「アンタが分かってなかったからでしょ! バカ!」 「馬鹿っていうな! お前! 誰に告白しようとしたのか分かってるのか!?」 「アンタよ! バカ!!!!!」  そう、左山は俺に告白しようとしていた。  バレンタインデー。告白の定番スポット屋上で。  屋上で告白する相手は俺だと聞いて、俺は慌てて屋上から離れようとした。  すると、さらにそれに気付いた左山に引っ張り込まれようとして言い合いになったのだ。 「だから! 俺は! 最低の男なんだって! お前を寒空の中一人で待ちぼうけさせるような!」 「それはアタシを狙ってた不良に絡まれて喧嘩してたからでしょう! 一人で五人相手に喧嘩して、ボコボコにされて、病院に運ばれて……」 「しかも、負けたんだぞ!」 「でも、騒ぎに気付いた周りの人が通報してくれて、結局アタシのトコロまで来ることなかったし」  そう、俺はあの日、左山と一緒に家族ぐるみのクリスマス会の買い出しに行く予定だった。  左山は先に買うものがあったらしくて、俺は後から合流する予定だった。  そんな時だ。  近道するつもりで飛び込んだ裏道で間の声が聞こえてきた。 「左山紗莉ってさ、処女でしょ? 多分、まだ恋に恋する乙女って感じなんだろうな~。だから超純情だと思うんだよな。好きな男が待ち合わせ場所に来なくても何時間も待ち続けるとかさ……不良に絡まれてピンチの時に颯爽と助けに来てくれた男に惚れる、とか」  その話を聞いた瞬間、俺はカッとなって思わず飛び出してしまった。  それに気付いた間が俺の口封じをしようと、みんなで襲い掛かってきた。  結果は、間含めた五人にボコボコにされておしまい。  情けなく『誰か警察を!』って叫んだのが怪我の功名っていうかなんというか……。  去り際に間に『誰にもこのこと言うんじゃねえぞ』と脅迫されたが、誰にも言うつもりはなかった。  だって、自分のせいで大怪我したアホがいるって知ったら優しい幼馴染は悲しむから。  行けないことを伝えられず、待ちぼうけさせて、風邪を引かせてしまった最低の男が俺だ。 「お前、入学式で間のこと『かっこいいかも』って言ってただろう! 俺の事なんか一言も……」 「あ、あの時はアンタがイチャイチャしてて腹立ったから……なんか、こっち見てほしくなって……だって、あんな若い叔母さんがいるなんて知らなかったから」  ウチは母親の代わりに叔母さんが来た。  叔母さんは母親と大分離れていて20代前半。  しかも、甥が可愛くて仕方ないらしく、めちゃくちゃスキンシップが近い。  あんな目に毒なものを純情な幼馴染に見せてしまい、家で叔母さんを叱った。  叔母さんは俺が左山のことを大切に思ってるのになんでこんなことするのかと。 「だから、してあげたんじゃない」  この時俺は首を傾げて『変な言い回しで誤魔化してもダメだ』って怒ったけど。 「な、なんで夏のあの海で好きになれるんだよ!」 「ちょっとややこしいんだけど……。」  髪の毛を弄りながら、左山は話し始める。 「あの時、アンタ、ビーチバレー大会のペア決めのくじ引きで、ヒロちゃんとペアになったでしょ。……なんかアタシ、それがイヤでずっとモヤモヤして、気付いたらチラチラアンタ見てて……あの、決勝で正面で戦ってるときヒロちゃん励ましながら頑張るアンタ見てドキドキして。 ……で、気付いたのよ。ちょいちょいアンタがアタシのこと見てるんじゃないかなって。それをビーチバレーのあと、ヒロちゃんに相談したら『他の人の視線は気づかないのにねえ、なんでだろうねえ』とか言われて……あの! ちょっと今、見ないで! アタシ、多分顔ヤバいから……!」  真っ赤になった左山が背を向けて……それでも話し続ける。 「……で、あの、もしかしたら、気のせいなのかもしれないけど、なんか、ずっと傍にいてくれなかった? 海の時。 勘違いだったら滅茶苦茶恥ずかしいけど、アタシのこと守ってくれてたのかなーって。 海って、その、ナンパとか多いから。 あの日は、あんま、声かけられなかったから……。 で、その、すっごいかっこわるい話なんだけど、なんか嬉しくなって、どこまで付いてきてくれるかな、とか思ったのね。で、すっごい色々行って、でも、アンタさりげなく付いてきてくれて、でも、調子に乗り過ぎて、頭くらっとして、倒れそうになったら、アンタが咄嗟にアタシを……! あの、助けてくれて。勢いあまって倒れ込んで、アンタ鼻血出して……で、海の家に慌てて連れて行ったら、譫言でずっとアタシの名前呼んで心配してくれてて……えと、それで、その、迷惑かけちゃったけど、好きだなーって」  聞いてたの左山だったのかよ。  起きた時には、左山がヒロちゃんって呼ぶ下野さんが少し離れたところでニヤニヤしてた。 『ずっとサリの名前呼んでたよ』って言われて顔面蒼白になってたけど、そういえば、バタバタって遠ざかる足音が聞こえてた気がする。  いや、でも、なんでだよ。  スト―カーみたいでキモいだろ。  なんで、好きになるんだよ。  あたま、おかしいんじゃないか……。 「ミスコンに出ればとか、何も考えずにお前に言って危険に晒したのは俺だぞ!」 「でも、全部アンタが守ってくれたじゃない! それに! アタシは、アンタに、惚れさせたかったから……! がんばったの! 出ればって言われて嬉しかった……アタシがミスコン出てもいいくらい可愛いと思ってくれてるのかなって。アンタ、いつもなんにも思ってないような顔だったから」  それは、下心見えて気持ち悪いと思われたくなかったし、俺の事なんてなんとも思ってないと、思ってたから。 「アタシ、あの頃、確信したの。絶対アンタは好きな人をちゃんと守ってくれる、一途なかっこいいヤツだって。アタシが好きになってもらえたら、きっとずっと好きでいてくれるって。そうなりたいって思ったの!」  嘘だろ……あの時の「アタシはそう思いません」って俺の事思いながらだったのかよ。  もう頭の中が嬉しさと今までの決意とでぐちゃぐちゃだった。 「俺は、大分、いや、相当、助平で変態だぞ!」 「それ、は……がんばるから!」  顔を真っ赤にして何を言ってるんだ俺もこいつも! 「あああー! もう! 好きだ!」 「……へ?」 「好きだ! 好きだって言ってんの! 好きだから! 俺みたいな、変態でストーカーみたいで無鉄砲でなんのとりえもない馬鹿は選ばないでほしかったんだよ……」  踊り場? で泣きだす俺に左山はそっと腕を回し、抱きしめてくる。  なんかよくわからない良い匂いがする。 「あーあ、アタシが告白するつもりだったのになあ」 「……ごめん、俺って本当に」 「アタシにとって最高の彼氏だよ」  なんでこう、ダメな俺なんかを、こんないい事言えるイイ女が告白してきたのかマジで謎だ。 「お! おい! 何やってんだよ! お前ら!」  階段下を見ると、間がまた叫んでた。 「紗莉は! 俺のもんだ! 右田!」 「間! お前、関係ないんだよ! マジで!」 「そんなわけあるか! 紗莉はオレが来たら顔真っ赤にして」 「それは、アタシが友太に告白するところ見られて恥ずかしくて、流石に初めての告白、他の人に見られるのはちょっと」  他の人呼ばわりされた間が金魚みたいに口をパクパクさせているが、何を驚いているんだ?  間のことなんて微塵も興味なかったのは知ってるし、俺よりも左山をしあわせに出来ないだろう。 「あ、あとで話って」 「ああ……うん、まあ、いっか。友太を、ボコボコにした件でお話がちょっと……あと、徹底的に間くんのこと調べさせてもらったから、泣かされた女の子、いじめられた男の子、今までやった色んな悪い事……アタシの友太をボコボコにしたんだもん、社会的にボコボコにしてあげる」  左山は、すごい。  左山は、かわいくて賢くて活発で色んな才能があるが、それは全て彼女が手に入れたいと強く願い努力して手に入れるべくして手に入れたものだ。  だから、手に入れる為ならばなんでもする。  左山は本当に、こわ……すごい。畏怖すべき存在だ。  間が足から崩れ落ち、這いずりながら逃げていく。  それを見ると、満足そうに笑い、『またあとでね』と声を掛ける。  そして、最初の時のように俺の腕を引っ張り屋上へ行こうとする。 「え? どうした?」 「さっき全力で阻止されたけど、やっぱり自分から告白したいの。チョコも作ったし」  俺はもう抵抗しない。  告白の定番スポット屋上。  に出る為のなんだここ? 踊り場? 踊れもしないけど五階から階段上がってすぐのところ、色々雑多なものが置いてて、その先の扉を開ければ屋上に出れる、まあ、そういうところを出て、屋上に。  左山は、いや、紗莉は、さっきまでのことがなかったかのように、急に真っ赤になって、もじもじしている。  先を紗莉が行ってたせいか、明るい茶系のミディアムだかなんだかとにかく肩に届くかくらいの長さの髪から出たのであろう、何を食えばそうなるのかってくらいツヤツヤでめっちゃいい匂いがする。  改めて、紗莉を見る。  身体もグラビアアイドルほどではないが出るところは出てるし、何より顔が良い。  そして、性格は、時に嫌な奴を痛快に叩きのめすほど男前で、時に好きな相手の前では真っ赤になるほどかわいい。  俺の自慢の幼馴染だ。  俺も自慢の幼馴染になろう。がんばる。  チョコの匂いがする。  あ、さっきからシャンプーっぽい匂いに混じって微かにしてたのこの匂いか。  甘い空気が漂う。  まさか自分がこうなれるなんて。 「好きです」  紗莉を不幸にさせない。 「ずっと一緒にいたい」  紗莉をしあわせにする。 「誰が邪魔してきても、絶対に負けないんだから」  あ、そういえば。  2パーセントの奇跡ですね、これ。  ハッピーバレンタイン。
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