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Ⅲ
「まりあちゃん、カトリック教会では、罪の告白を『懺悔』とは言わないのよ。ここではね、罪を告白して許しを受けることを『告解』と言うの」
私は、まりあをベンチに座らせながら言った。
「告解……。知りませんでした」
「それは、洗礼を受けた人ができる儀式なの。だから、洗礼を受けていないまりあちゃんは、告解のことは知らず懺悔って言ったのよね」
「そっか……。信者さんじゃないとダメなのか……」
肩を落として、ため息まじりにつぶやくまりあ。
「どうしたの、まりあちゃんは、罪の告白がしたいの?」
そう言いながら、シスターもまりあの隣に座った。
「そう言えば、浩二さんとか、お別れしたくないとか言ってたよね」
私が、まりあに最初に声を掛けたとき、そのようなことを言っていた。こくりと、うなずくまりあ。
「告解はできないけど、神さまは、まりあちゃんの苦しい気持ちを聞いてくれるよ」
シスターがまりあの背中をさすりながら、そう言うと、
「じゃあ、あの、聞いてくれますか。私の罪を」
まりあは、顔を上げた。そして、キリスト像の方に向いて
「神さまも聞いてください」
そう言って、語り始めた。
「私2年前から、田中浩二さんと言う人と、お付き合いを始めたんです。お仕事の関係で知り合って……」
「それが、さっき言ってた浩二さんね」
私は、確認した。
「はい。私は、浩二さんが大好きで、結婚してもいいなと思っていました。浩二さんも私と結婚してもいいって言ってくれました」
「わあ、いいお話じゃない。まりあちゃんを好きになる男の人って絶対幸せになるよ」
シスターが、まりあの手を握る。
「それが、突然1週間前に浩二さんが『結婚話はちょっと待って』って言いだして、それっきり会ってくれなくなって……」
「はあ? どうして? 何かあったの?」
私は、まりあに詰め寄る。
「わかりません……。けんかをしたこともなかったし。お互い嫌な思いをしたこともなかったと思うんだけど」
「で、その後どうなったの」
大いに気になる。
「昨日、『大事な話があるから会いたい』って連絡がきて。それで、今から浩二さんと会うのですけど……」
「まりあちゃん、それってプロポーズじゃない?」
私は、思ったことを言ってみた。普通に考えると、そういう答えになるはずだけど。
「私も、そう願っています。だけど、だけど私が今まで犯した罪で、浩二さんが私のことを嫌いになったとしたら。それで結婚するのが嫌になったとしたら……」
まりあは、両手で顔を覆った。
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