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「あなた、何か大それたことをしたの?」  私は、幼稚園時代のまりあしか知らないが、とても大それた犯罪を犯す人間とは思えない。いつも笑顔の優しい子というイメージしかないのに。 「どうしましたか?」  いつの間にいたのか、入り口にこの教会のレドンド神父(しんぷ)が立っていた。ちょっと小太りのレドンド神父もスペイン人だ。黒いズボンに白いセーターを着ている。 「ああ、神父様。私の幼稚園の教え子なんですけど。何か悩んでいるようで……。そうだ、まりあちゃん、神父様に悩みを聞いてもらったら?」 「はい、聞いて頂きたいです……洗礼を受けていないので信者ではないんですけど、神父様に罪の告白をします」  まりあは、(うる)んだ目でレドンド神父を見ている。 「え? そう。はいはい。どうぞ、どうぞ」  神父は、わけもわからず安請(やすう)け合いをする。まあ、いつものことではあるけど。私と、シスターは立ち上がって、その場を離れようとした。 「あ、高橋先生とシスターも聞いてください。私の罪を……」  まりあが、手を握って引き留めてきた。私は、シスターと目を見合わせて、ベンチに座り直した。まりあが座っている前の席に私、後ろの席にシスター、神父は隣に座った。 「どうぞ」  神父は、ほほ笑んでまりあを(うなが)す。 「はい、私はたくさん悪いことをしているのですが、思い出したものから言います。えーと小学生のときです」  ええ! そんな前のことから告白するの?  神父は、静かにうなずいている。 「隣の席に座っていた、ケンちゃんの消しゴムにマジックで『バーカ』と書きました」  つらそうに言うまりあ。 「何で、そんなことをしたのですか?」  優しく聞く神父 「ケンちゃんが、私の友だちの頼子(よりこ)ちゃんのスカートをめくって、いじめたからです」  そのときのことを思い出したのか、まりあは語気(ごき)を強めて答えた。 「…………」  神父は、まりあの次の言葉を待っている。 「…………」  まりあは悲しそうな顔をして神父の顔を見ている。 「……で?」  神父は、まりあを促した。 「え? それだけですが……何か?」  と、まりあ。  それだけって……。 「それが、告白したかった罪ですか?」 「はい、本当は、『あほう』の方がケンちゃんを傷つけなかったと思うのですが、『バーカ』って言葉はケンちゃんにとってはすごく傷ついたみたいでした。私は、ひどいことをしてしまいました」  そう言うと、まりあは両手で顔を覆って頭を下げた。私は、半ば興味深く神父を見た。
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