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Ⅳ
「あなた、何か大それたことをしたの?」
私は、幼稚園時代のまりあしか知らないが、とても大それた犯罪を犯す人間とは思えない。いつも笑顔の優しい子というイメージしかないのに。
「どうしましたか?」
いつの間にいたのか、入り口にこの教会のレドンド神父が立っていた。ちょっと小太りのレドンド神父もスペイン人だ。黒いズボンに白いセーターを着ている。
「ああ、神父様。私の幼稚園の教え子なんですけど。何か悩んでいるようで……。そうだ、まりあちゃん、神父様に悩みを聞いてもらったら?」
「はい、聞いて頂きたいです……洗礼を受けていないので信者ではないんですけど、神父様に罪の告白をします」
まりあは、潤んだ目でレドンド神父を見ている。
「え? そう。はいはい。どうぞ、どうぞ」
神父は、わけもわからず安請け合いをする。まあ、いつものことではあるけど。私と、シスターは立ち上がって、その場を離れようとした。
「あ、高橋先生とシスターも聞いてください。私の罪を……」
まりあが、手を握って引き留めてきた。私は、シスターと目を見合わせて、ベンチに座り直した。まりあが座っている前の席に私、後ろの席にシスター、神父は隣に座った。
「どうぞ」
神父は、ほほ笑んでまりあを促す。
「はい、私はたくさん悪いことをしているのですが、思い出したものから言います。えーと小学生のときです」
ええ! そんな前のことから告白するの?
神父は、静かにうなずいている。
「隣の席に座っていた、ケンちゃんの消しゴムにマジックで『バーカ』と書きました」
つらそうに言うまりあ。
「何で、そんなことをしたのですか?」
優しく聞く神父
「ケンちゃんが、私の友だちの頼子ちゃんのスカートをめくって、いじめたからです」
そのときのことを思い出したのか、まりあは語気を強めて答えた。
「…………」
神父は、まりあの次の言葉を待っている。
「…………」
まりあは悲しそうな顔をして神父の顔を見ている。
「……で?」
神父は、まりあを促した。
「え? それだけですが……何か?」
と、まりあ。
それだけって……。
「それが、告白したかった罪ですか?」
「はい、本当は、『あほう』の方がケンちゃんを傷つけなかったと思うのですが、『バーカ』って言葉はケンちゃんにとってはすごく傷ついたみたいでした。私は、ひどいことをしてしまいました」
そう言うと、まりあは両手で顔を覆って頭を下げた。私は、半ば興味深く神父を見た。
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