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Ⅴ
「そうですか、それはよく告白してくれました。主よ、彼女の罪を許したまえ」
神父が、まりあの頭に手を当てようとしたとき、
「ああ! まだありました!」
まりあが、ガバっと顔を上げた。
「まだ、何か?」
飽くまでも笑顔を絶やさない神父。
「中学生のときのことです」
「はい」
「弟が寝ぼすけでいつも遅刻するので、いたずらして弟の目覚まし時計を30分進めてセットしました」
「え、でもそれって、弟さん遅刻しないですむじゃない。何がいけないの?」
私は思わずつぶやいた。これって、いたずら? 罪?
「確かに弟は、いつもより早く家を出ました。でも、その日は祝日で学校が休みでした。お休みの日に、30分も早く起こしてしまいました」
「え……。で、弟さんは」
「怒って帰ってきました」
「わ、学校に行ったんだ。だけど休みで誰もいなかった。それは、怒るよなあ」
「ばちが当たったのか次の日、私が寝坊をして遅れてしまいました」
頭をかく、まりあ。
「まあ、可愛い」
シスターがまりあの頭をなでた。
「……以上ですか、告白は……」
神父は、笑顔を絶やさない。
「いえ、まだあります。高校生のときはテストで、カンニングペーパーを作ってしまいました」
「まあ、それは、まりあちゃんらしくないわね」
教員の立場から言わせてもらうと、カンニングはよくない。
「あの、でもカンニングペーパーを作ったら全部覚えてしまって、テストでは使わずにすみました」
「そういうところは、まりあちゃんらしいわね。うーん。罪と言うには微妙ね」
「……以上ですか、告白は……」
すかさず、神父が口を挟んだ。
「まだあります。浩二さんにプレゼントするバレンタインのチョコに粉砂糖と間違って、どっさり塩をかけてしまいました。で、その失敗を……黙ってました。それなのに、浩二さんは、『塩チョコレートだね、おいしいよ』って言って食べてくれたんです」
「まあ、優しい方じゃない」
シスターは、常によいように物事をとらえる人だ。
「つい最近では、デートに行くので、お弁当のサンドイッチを作ったんですけど、マヨネーズと辛子を間違ってつけちゃって……」
「あらま」
「でも、浩二さんは、涙を流しながら『この刺激がいいね、おいしいよ』って言って食べてくれました」
「素敵! 浩二さんはいい人ね」
「そうなんです。浩二さんはいい人なんです。そんな浩二さんが、急に会ってくれなくなって……きっと私の犯した罪のせいなんだ! 今日の大事な話って、別れ話なんだ!」
「だから、何でそうなるのよ……」
「私が、罪深い女だからです!」
今度はベンチに突っ伏して泣いてしまった。
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