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Ⅵ
「まりあさん、あなたの告白で、かみさまは全ての罪をお許しになりました。もう罪はありません。自分を責めないでくださいね」
神父が、うつむいているまりあの頭に両手を置いた。
「そうよ。浩二さんていい人じゃない。きっとまりあちゃんとお似合いだわ」
私は、まりあの話から田中浩二なる人物は、いい人だと思うのだが。
「そうそう、まりあちゃんを振る人はいい人じゃないよ。そのときはわかれた方がいいよ」
シスターは、大雑把だ。
「そ、そうでしょうか。罪の告白もしたし……。よし、もうこれで、どうなってもいいです。そのままの私で浩二さんに会いに行ってきます」
顔を上げたまりあは、せっせと化粧直しを始める。
聖堂の出口で、私とシスター・リディアとレドンド神父は、まりあを見送った。
「まりあちゃん、祈ってますよ」
神父は、最後までにこやかに言った。
「ありがとう、ございます!」
まりあは、振り返りつつ明るく手を振った。そして駅の方へ力強く歩いていった。
まりあを見送った後、聖堂の掃除を終えた私たちは、控え室でティータイムだ。
「まりあちゃん、可愛い人じゃないですか。ぜひ、またこの教会に来てほしいですね」
神父は、まりあに信者になってほしいようだ。
「そう言えば、シスターは、まりあちゃんにすぐに洗礼を受けなくてもいいって言ったそうですね」
まりあの話を思い出して、私は、シスターに尋ねた。
「ええ。あのときはね。まりあちゃん修道女になりたいって言ってたの。まりあちゃんは真面目だから、洗礼を受けるとすぐにでも修道女の道をつっぱしると感じたんで、焦らないでって言ったの。もちろん、まりあちゃんならいい修道女になると思ったし、私も嬉しかった。でも修道女になると結婚しないでしょ。それより、まりあちゃんは結婚して家庭を持った方がいいと感じたの。家族を通して世の光になるのが、まりあちゃんにとって一番いいんじゃないかって……」
「それで、すぐに洗礼を受けさせなかったのね。シスターの考えは正しかったと思うよ。これからは、まりあちゃんが自分で決めるでしょうよ」
そう私が行った後、皆しばらくは静かにお茶を飲んだ。
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