嗜好品には手間暇をかけて

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朝の日差しを思いっきり浴びてキラキラしているベビーリーフを拳一つ分の面積ほど摘み取り、キッチンへと向かう。換気扇では抑えきれないベーコンの焼ける良い香りとパチパチ弾ける音がしてきて、思わず小走りで愛してやまない彼のもとへ。 「ナイスタイミング! もうすぐ焼けるから洗ってもらってもいい?」  にっこり笑う彼への答えは勿論YES。丁寧に洗っているうちに、パンにはバターが塗られ、その上にベーコン、スクランブルエッグ、またベーコンと重ねられていく。彼特製のソースもかけられ、後はベビーリーフを乗せるだけ。本日の朝食はベーコンエッグサンドイッチとコーヒー。実は冷蔵庫に柑橘ゼリーがあるのも把握済みだ。 「「いただきます!」」  私と彼、二人の声がそろう。同棲を始めてから半年。元々食に興味がなかった私はいつの間にかに彼が織りなす絶品料理の虜になっていた。より美味しいものが食べたい、とプランターで野菜を育て始めるほどに。 食というのは不思議なもので、生きるために必要最低限の行為でありながら最高の嗜好品にもなる。農家さんは美味しいお肉のために餌の配分を研究し、猟師さんは牛豚鶏以外も食べたいと猟師さんは山に繰り出す。そして、私はより新鮮なものを彼に調理してもらうために慣れない園芸を始めた。 人間の食への執着は凄い。私の執着を呼び覚ました彼の調理技術はさらに凄い。
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