嗜好品には手間暇をかけて

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サンドイッチにかぶりつくと口の中いっぱいに広がる旨味。このベーコン、ただ者ではない。特製ソースにはハーブやスパイスがふんだんに使われており、エスニック風の複雑な味わいがベーコンを引き立てる。濃くなりそうな味をシャキシャキのベビーリーフとふわとろ卵が絶妙に中和。今日のご飯も最高である。 「実は、知り合いの猟師の方がお裾分けしてくれた鹿肉ベーコンを使ったんだ」  彼は頬がゆるゆるになっているであろう私の顔を嬉しそうに見ながら教えてくれた。 その猟師さん、美味しいジビエを食べるべく山にハーブや柑橘類を増やすなどの試みをしているらしい。臭みのないジビエ肉にするのに欠かせない血抜きにもこだわっていて、山で行うのはもちろん、その場で最適な処理が行えるように棒やロープなどの獲物を逆さにするための道具を必ず担いでいくそう。なるほど、美味しいわけだ。  あっという間に食べ終えてしまったが、正直まだあと一つは食べられる。なくなってしまった名残惜しさに、先に食べ終わっていた彼がキッチンにいるのを良いことに手に伝ったソースを舐めた。 ダイニングに戻ってきた彼の手には食後の柑橘ゼリーが。贅沢なことにレモンとピンクグレープフルーツとかぼすの三種入り。さっぱりとしたゼリーはお肉とスパイスの足跡を洗い流してくれて、やっと私の食欲が鎮圧された。  毎日こんなに美味しい料理を用意してくれるのだ。仕事にもやる気が出るというもの。今日は何やらやりたいことがあるらしく、私は有給を取った彼に見送られながら玄関を出た。 きっと帰ってきてドアを開けたら今夜も美味しい香りが漂っているはず。
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