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「本当ごめん!つい話に夢中で…」
「いやいや、それは私もだからお互いさまだよ!まさか、翔也くんとこんなに話が合うなんて…」
2階のカフェから5階の映画館まで。
お互いに謝りながらエスカレーターを昇る。
時計は12時57分。
映画のチケット
12時45分上映。
完全に予告編まで過ぎている。
カフェに行く車内から
店内でご飯を食べている最中さえ
あまりにも順調過ぎる滑り出しだった。
一言で言うならば
話が尽きない。
こんな経験は、今まで交際してきた人と比べても初めてのことだった。
大学時代の話から、中学高校時代など美佳さんと出逢う前の話や
就職してから今までの近況など。
まるで、燃え上がった焚き火が、パチパチと音を立てて飛び回るように
お互いの話が次から次へと盛り上がり
気づけば、映画の始まる時間をとうに過ぎ、今更慌てているわけなのだが…
「ふふふ。」
「?どうしたの?」
「いやね、せっかくの映画に遅れてるのに、それすらどうでも良くなるくらい楽しくて。そしたら、何だか笑えてきちゃったの。」
「俺も、美佳さんと話すの本当に楽しいし、まだまだ沢山話し足りないって思ってるよ。」
「…私も。私も、また翔也くんともっと話したいな。」
すっと美佳さんの左手がのびてくる。
「でも…続きは、映画のあとでね。」
笑うと目がなくなる美佳さん。
やっぱり
素敵だ。
「映画、楽しみだね!」
小さな左手を掴んだ右手は
今思えばきっと
少し汗ばんでいた気がする。
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