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「まさか、最後であの序盤の伏線がくるなんてね〜。」
映画を見た後ち、僕らは車を走らせていた。
美佳さんの提案で、初めて出逢った大学に、内緒で足を運ぶことにしたのだ。
「脚本もだけど、演技力が凄くて、グッと映画に引き込まれたよね。」
「わかる。でもやっぱり、最後に主人公の女の子が報われなかったのは…なんか、残念だったな…」
流れていく景色を、助手席の窓から眺める美佳さん。
遠い目をしているその姿は、何処か違うところを見ているようだった。
一度、美佳さんから視線をずらし、さっき見た映画のストーリーを思い出す。
主人公には、大好きな男友達がいた。
でも、その男友達には彼女がいて
男友達が彼女とうまくいかない時に、決まって主人公が呼ばれては慰めてを繰り返していた。
いつしか、その頻度も増えてきた頃
主人公は、自分の立ち位置に苦しんでいた。
どれだけ大好きな人に寄り添っても
残るのは、余計に大きくなった寂しさだけ。
いつしか、その寂しさはグラスから溢れ出し
映画のタイトルの通り。
そして
同じタイミングで男友達もまた
「寂しさに負けた夜」を過ごした。
とうとう、一線を越えた主人公は切り出してしまう。
「ずっとあなたのことが好きでした。代わりに、私があなたのそばにいちゃだめですか?」
誰もが望んだハッピーエンド。
でも
返ってきた答えは一言。
「ごめん。」
主人公は、シーツに背中を預けたまま
冷たいドアの閉まる音が鳴り響く。
そんな、一種のどんでん返し的なラスト。
それが何処か現実的で
でも
映画でないと、心がキュッと締め付けられるような。
そんな、切なくて小さな世界のラブストーリー。
主人公が同じ女の子だったからだろうか。
美佳さんは、より感情移入している様子だった。
あれだけ、行きは盛り上がっていた車内が
今は、映画の余韻でしんみりとした空気になっている。
前を向いたまま静かに息を吸い、見えない美佳さんの横顔に話しかける。
「でもきっと、主人公はあれで良かったんだって思うよ。」
「…え?」
「だって、幸せって一つじゃないから。今まで幸せだって思ってたものが、遠い未来の幸せだとは限らない。でも、少し先に落ちてる幸せが、過去に感じた幸せを上書きすることだってある。」
「…。」
「確かに、主人公は仮初めの幸せすら失った。でもそれは、新しい幸せを掴むための布石で…きっと、あれだけ誰かを愛することが出来た主人公は、他の誰かを同じように愛して、もっと素敵な幸せに出逢えると思うから。だから、これで良かったんだよ。」
「…新しい、幸せ。」
「…な〜んて。偉そうなこと言っちゃったけど、これ映画で創作物なんだよね。」
ちょっとおどけた感じで
美佳さんに小さく笑いかける。
さっきまで上がらなかった口角が
美佳さんに新しいえくぼを作る。
「翔也くんて、優しいね。」
「え、そうかな?なんか、急に変なこと言っちゃってごめんね。」
「ううん、そんなことない。そんなこと、ない。………翔也くん、ありがとう。」
優しく笑う美佳さんは
いつもの美佳さんだった。
「うん。どういたしまして。」
「あとね、一つ言えなかったんだけど…」
「いいよいいよ。何でも言ってよ!」
「大学、さっきの道右だよ。」
「………あーーー!!!」
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