あなたから/わたしから

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 メリーゴーランド、アームに繋がったエアプレーン、ホラーハウス。私は先輩を引っ張り回してはしゃぎ、先輩も笑顔で付き合ってくれた。  そして、バイキングに乗った先輩の顔が引き攣り気味だったことに気付いた私は、ついイタズラ心が沸いてしまった。 「先輩、アレ乗りましょう、アレ!」  私が指さしたのはジェットコースター。このこじんまりとした遊園地には不似合いなほど本格的で、ループもある。 「おい……」 「行きましょう!」  先輩の背中をグイグイ押し、順番待ちの列に加わる。  ソワソワしている先輩を得意のお喋りでごまかし、引き止め、ついにコースターに乗り込む。だんだん口数の減った先輩は、とうとう無の表情だ。  出発の音と共にコースターはゆっくりと動き出し、坂を登り切ると——ごおっとレールを滑り降りた。 『わあああっ』  私と先輩は同じような、でも絶対に感情の違う声を上げた。ループで始まり、右へ左へ。私はそのスピードと重力を楽しんだ。 「大丈夫ですか?」  ベンチでぐったりと座る先輩に、売店で買ったソフトクリームを差し出す。 「……お前、分かってて俺を乗せたろ」 「すみません」  さすがにちょっと反省する。こんなにグロッキーになるとは思わなかった。 「楽しかったか」 「はい」 「なら良かった」  先輩は受け取ったソフトを舐める。 「お前が楽しかったなら乗った甲斐があるよ」  その不意打ちのセリフに、私は思わず固まる。私のために乗ってくれたんだ。薄々分かっていたけど、はっきり言われて私はきゅうんと胸の奥を掴まれる。 「……どうした」  黙ってしまった私を見て、先輩が顔を覗き込んでくる。私は慌てて顔を上げ——観覧車を見た。 「じゃ、じゃあ先輩、最後に」と、私はそれを指す。 「ああ……いいな」  先輩は少し元気を取り戻して笑った。  徐々に上がるゴンドラから、次第に園内の全景が見えてくる。影に飲まれ始めた風景が、もう今日の終わりが近いことを告げてくる。  私たちは黙って外を眺める。そのゆっくりした時間が、私に今日のことを思い出させる。  眼下に見える一緒に遊んだアトラクション。あちこちにできた行列。それから歩き回った園路。あれはソフトクリームを買った売店。私は思い出してクスリと笑う。無理に乗せちゃってごめんなさい。  はしゃいで歩き回った自分が見えるようだ。先輩、先輩って。その姿が、改めて今、自分がどんな気持ちなのかを知らしめる。  ああ、楽しいなあ。  やっぱり先輩といると楽しい。  最後の一押しを押されたのは、私だった。 「——先輩」  私は先輩に向き直った。もうじき天辺だ。 「覚えてます? 私が初めて告白をお願いした時のこと」 「あー、覚えてるぞ」  先輩が笑う。 「職員室に資料を持ってく途中、人気のないところで呼び止められて『告白してください!』だもんな。こいつ何言ってんだ、って思ったよ」 「私、今でも男性から告白して欲しいな、って思ってるんです」  私は先輩をじっと見た。心臓は早鐘のように打ち、手は熱を持ち汗ばんできている。 「でも、もう我慢できません」  それから息を吸って、一息で想いを吐き出す。 「先輩、好きです。付き合ってください!」  言った。言ってやった。言ってしまった。  だって本当に我慢できなかった。 「おま……」  先輩が口をパクパクさせる。 「よろしくお願いします!」  ダメ押しと私は頭を下げる。膝の上でギュッと握った、小刻みに震える自分の手が見える。  先輩は何も言わない。でも私も答えを待つしかない。その間も観覧車は回り、次第に高度を下げていく。もう、残り四分の一。 「……ズルくない?」  やっと先輩が言葉を発した。 「ここまで『告白しろ、告白しろ』って言っておいてさあ」 「すみません、我慢できませんでした」 「観覧車に乗るって言うから、チャンスだと思ったのに」 「へ」と、私は顔を上げた。 「告白。俺からしようって思ってたの」  先輩は苦笑いだ。 「じゃあ!」  ガシャガシャ、と扉を外から開けられる。もう乗降口だった。先輩がさっさと降りてしまう。 「あっ」  私は慌てて立ち上がる。 「ほれ」  差し伸べられた手を掴み、とん、と地面に軽く跳び降りる。 「手をつなぐぞ。付き合うんだからさ」 「はい!」  告白してもらうのは失敗した。  けど、告白して本当に良かった。きっと今の私はあの主人公のように、幸せな表情をしている。  私はぎゅっと、つなぐ手に力を込めた。 《了》
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