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「先輩、告白してください!」
「しねぇって言ってるだろ!」
私は学校の廊下を先輩を追いかけるように歩く。
放送委員会の定例会に合わせて行われる、私と先輩の、週一回のルーティンだ。
廊下から玄関、それから靴を履いて校門に向かう。
「一緒に帰りましょう」
「お前はあっち、俺はこっち! 逆方向だっていつも——」
「だから私が途中まで——」
「夫婦喧嘩はそこまでっ」
とそこで、友達のアザミが割り込んできた。どうせ先輩とは一緒に帰れないことを見越して、校門で待っていてもらったのだ。
「あ、あーちゃんお待たせ」
「……夫婦どころか付き合ってもいねーよ。じゃあな」
先輩はため息をつき、軽く手を上げて去っていく。
「先輩、さようなら!」
私は笑顔で先輩を見送る。
「あんたも飽きないねえ」
アザミが笑い、私たちは反対方向に歩き出した。
「ま、側から見ても嫌われていない、ってのは分かるけど」
それからアザミが突拍子もないことを言う。
「もういっそデートにでも誘ったら?」
「え、どういうこと?」
「最後の一押しになるんじゃない? 映画とか遊園地のチケットが当たったとか何とか言ってさ」
「そっかー、アリかも」
幸い、近場に小規模な遊園地がある。そこのチケットを入手して、何とか誘ってみよう。
「で、帰りに告白を——って、まだあんた告白してもらおうと思ってるワケ?」
アザミの何度目かの質問に、私も何度目かの持論を展開する。
「告白は男がするもの、なの」
私は力を込める。
「男性が思いの丈を込めた告白をして、それを女性が頬を染めながら受け入れる。それが恋人の始まりでしょ!」
「分からん。あたしならサッサと自分から告白するわ。漫画の読みすぎ」
アザミは呆れたように肩をすくめる。
いいのだ。
小学生の頃に読んだ、少女漫画。主人公は夕方の海岸で、憧れの先輩から告白される。夕日の赤でも隠しきれないほど真っ赤になった主人公が、小さく『はい』と頷く。その幸せそうな表情が、私の恋愛観を決定付けてしまった。
私は男性から告白されて、恋人になりたい。
それに私は私が先輩を好きなのを知ってるけど、先輩がどう思ってるかなんて分からない。だから先輩から告白されたらそれは相思相愛で、きっと幸せになれると思うのだ。
入場ゲート前に見覚えのある顔。良かった、すっぽかされたりしなかった。作戦は成功だ。ホッとしつつ、嬉しさがこみ上げてくる。
「先輩、お待たせしました!」
「遅いぞ! ……と言っても時間前か」
「ピッタリです」
私と先輩はチケットを係員に渡して入場する。
「お前、楽しみにしてるならもっと早く来いよ」
「準備に気合い入れすぎちゃって」
「まあ……」
先輩は私を上から下まで眺める。
「分からんでもない」
「あっ、可愛いですか? 告白したくなります?」
「あのな……行くぞ」
先輩はぷいと顔を背けたが、満更でもなさそうだ。頑張った甲斐がある。
「はい!」
私は先輩と並んで歩き出した。
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