樹海での告白

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「歪んでる、と思いますか?」 「何がだ?」 「佐伯多美の愛の形の話しです」若林は運転席でハンドルを握り前方を見据えながら言う。「正直に言って、私だったら自分にあんなにも暴力を振るってくる人が死んだら、嬉しくて舞い踊っちゃうかもしれません」 「おい、随分正直だな」  しかし若林の言い分も十分に理解することができる。それほどに佐伯多美の顔にある顔の痣は壮絶なものだった。 「でもいくら歪んでいても、それが愛だって当人が言えるんだったら部外者が口だしすることはなにもないんじゃないか」 「そんなこと言って、さっき浮気されてることを追求してたじゃないですか」 「俺の意見と仕事の意見はまた別の話だよ」 「あ、逃げましたね」  若林は心なしかきつめにブレーキペダルを踏んだようで、車全体がぐらと揺れる。 「人をどう愛するのが正解か俺に分からんよ。分かってたら、俺はもうとっくに結婚してる」時臣はシートを倒して次の現場まで寝る用意をした。「でも一つ言えるのは、愛っていうのは人になくてはいけないもんだが、時にそれは人の命を断ち切る凶器にもなり得る。そういう感情の起伏が起こるのはきっと愛くらいしかないんじゃないか?」 「それは個人的な意見ですか?」 「仕事に決まってるだろ」
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