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紀子の夫である梶信幸が行方不明になっている事が判明したのは、それからすぐのことだった。彼はその日の二十時頃に会社を出たのを最後に行方が分からなくなっているようで、会社の同僚などに話しを聞いてみてもその日の彼に特に変化はなかったという。
生真面目で面倒見の良い性格だったらしい梶信幸のことを会社の同僚達は皆心配している様子だった。
「警察は彼の事を疑っているんですか?」
同僚のうちの一人が時臣に向かって尋ねる。彼女は時臣らを敵だと思っているらしく警戒心を剥き出しにした目をしていた。
「いえ、そういうんじゃないんです。ただ、事件当時の詳しい情報を知りたいだけでしてね」と時臣は言った。
「信幸さんに至って罪を犯すなんてありえません。あの人は誰にでも底抜けに優しいんです。あなたたちは彼のことをなにも知らないから疑うことができるんですよ」
「そうですね。私らは信幸さんのことをなにも知りません。だからこそ、彼の事をよく知るあなたたちに話を聞いて彼の事を知ろうとしてるわけです」
若林は間に入って、同僚の女に向かって言う。時臣が苛立っているのを察知したのかもしれない。
「時間の無駄だと思いますけどね。少しの立ち話程度じゃ、人の善し悪しなんて推し量れる訳じゃないんですし」
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