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梶夫妻が住む家に着くと、そこにいたのは10歳の息子だけだった。両親がいなくなったことでひどく憔悴しているようで、時臣らが声をかけても一切返事をしなかった。
「ねえ、お父さんはどうなったの」
「お父さんはね、まだ見つかっていないの。でもすぐに見つかるから安心してね」
若林は子供の目の前でしゃがみ込み頭に手を乗せて、微笑みを作りながら返す。しかし子供の震えは止まることはなく、若林の手を払いのけると奥の部屋に引っ込んでいってしまった。
「一夜に両親を失ったんですから、仕方ないですよね」
「とりあえず、子供は警察のほうで預かろう。このままじゃいくらなんでもかわいそうだ」
時臣達は家の捜索を始めた。どうやら梶信幸は二十時に退社したあと一度家に帰ってきていたらしく、彼の寝室には通勤の鞄が無造作に置かれていた。
しかし一番の収穫は書斎の机の上に置いてあった一枚の写真だった。浮気現場を取り押さえたように遠くから撮影された写真には路上で抱き合う男女が写っている。女の方の顔はよく見えないが、男の方の顔は時臣達が持つ梶信幸の顔写真とそっくりだった
「なんでこんな写真が堂々と机の上に置いてあるんでしょうか」
確かにそれは無視できない点だった。こんな人生を左右する重大な写真がなぜこうも無造作に机に置かれているのだろう。
「梶紀子は夫の浮気に気づいていたのかもしれないな」写真を見ながら時臣は呟いた。「おそらく事件当日、信幸の不倫に夫婦で関して話し合いが行われたのかもしれない。だからこの写真はこんな場所に置かれているんだ」
「それは事件に関係があると思いますか?」
「まあ、あるだろうが……梶信幸の行方が分からない限りなんとも言えないな」
そんな事件当日の重大な話が無関係とは思えなかった。きっとこの事件はその話し合いをきっかけに動き出したのだ。
事件の大枠は分かってきたが、あと一歩のところで未だ解決の糸口は掴めない。そんな時に若林の携帯が鳴った。少し離れた場所に行って若林は電話に出る。
そして十秒も経たないうちに、若林は大慌てで戻ってきた。
「犯人が出頭してきたそうです!」
そしてその同時刻、例の樹海で梶伸幸の遺体が見つかった。
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