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佐伯多美は自分の容疑を認め、罪を告白した。
婚約者の浮気相手だった梶紀子を殺そうと思った多美は事件当日の夜、梶夫妻が樹海に入っていくのを目撃した。二人が心中するつもりだと悟った彼女はあとをつけ、言い争いの末に梶紀子が首を吊り自殺するのを見届け、梶信幸を殺害してから彼女は家に戻り、婚約者の米山義男を殺した。
ただ起こった事だけを淡々と話すその姿はどこかで感情をなくしてしまったようにも見えた。
「もう全てにうんざりしたんです。疲れてしまったんです。怒鳴られるのも、殴られるのも、人と一緒にいるのも。だから全部終わらせようと思いました。不倫相手の女もその旦那も。そして元凶である私の婚約者も」
「どうして梶信幸を殺したんですか? 彼とあなたは何の関係もはずだ」
「二人が言い争っているのを聞いて、梶信幸が浮気をしていたことを知りました。だから殺したんです。浮気をされるほうの痛みは痛いほど分かりますからね。それに梶紀子も一人で死んでいくのは寂しいでしょうから」
「梶信幸の遺体と米山義男の遺体を取り替えたのは何故ですか? 何故、梶紀子に自分が着ていた服を着せたんです?」
「捜査を混乱させようとして取り替えました。このままじゃ私が捕まることは目に見えてましたから。私だって捕まりたいわけじゃありません。でも、今となっては無駄な行いだったと思ってます」
それ以降、佐伯多美は壁とキャッチボールしているかのように同じ事しか言わなくなった。もう自分に下る罰を完全に受け入れているようだ。
最後に一ついいですか、と時臣は言った。
「どうして出頭する気になったんですか」
「あなたがた警察に失望したからですよ」
佐伯多美はそう言って、警官に連れられその場を去って行った。
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