しらない

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 十二月に入ってから、君には少し余裕ができた。文化祭は無事に終了したし、中間テストも八十点ぎりぎりで乗りきったのだ。  そこでようやく、返事のないメッセージを思い出す。確認してみれば、既読すらついていない。そろそろ会えそうだけど、どう? 君はコンタクトを取ろうと試みる。もう少しつっ込んで聞いてあげればよかったかな、と少しだけ反省をする。そうして、三日は待った。  返事がこない。  既読すらもつかない。  君は試しに電話をかけてみる。辛抱強くコール音を聞き続けるのだが、キャンセルになってしまう。  どうしたものか。君は少し困ってしまう。犀川涼は、別の大学の人間だった。君の大学のインカレに所属している。彼女との出会いは、一つの講義だった。友人を誘って、君の大学の講義に忍び込んでいたのだ。君は君の友人が犀川涼と話していたところに、偶然居合わせてその講義を受けるときのみ顔を合わせ歓談するという奇妙な関係になった。  当時の君の友人は、三年生になろうというタイミングで退学していた。彼は退学後、連絡先を丸ごと変えてしまった。その旨を知らせる手紙が、部活動で使っている君のロッカーに入っていた。新しい連絡先の明記はない。唯一知っている共通の友人とは、もう連絡は取れない状態だった。  君の頭の隅には、嫌な予感がふつふつとわいてくる。  けれど同時に、ふざけた調子が耳元で聞こえてくるような気がしていた。  しばらくは毎日確認をしていた。しかし君の思考を奪うものはすでにたくさんあったし、新しくインターンシップという問題も出てきた。犀川涼の存在が君の脳内の隅に隅にと追いやられていくのと同じように、チャットの履歴も下へ下へと追いやられていった。  君の就職活動は、ぎりぎりまで行われた。三月になってようやく内定をもらった。そのため、卒業式にも顔を出さなかった。  仲のよかった何人かには報告をし、遊ぶ約束を取りつける。ついでに連絡先の整理を始める。大学生というのは、会えばとりあえず連絡先を交換する癖がある。君はやり取りの内容も選別していく。  かなり進んだところで、犀川涼にたどり着く。君はようやく思い出し、忘れていたことに驚いた。かなりの懐かしさとともに内容を確認する。  既読はついていなかった。  君は画面を戻す。チャット履歴を左にスライドし、真っ赤な背景の中央に描かれている白いゴミ箱ボタンを押した。
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