魚料理:白身魚のクリーミー仕立て

1/1
前へ
/7ページ
次へ

魚料理:白身魚のクリーミー仕立て

その日の病院食も薄い味つけの白身魚だった。 「分かるよ。流石に飽きたよねこの魚料理。私が作ってあげたいくらいだわ」  一つ目の出会いは彼女だった。名前はカスミ、私と同じ被害者とのこと。料理好きな女性だ。 「飯も飽きるしなにより景色が悪い。それが何よりも嫌だね」 「あらそう、私は別にそうでもないけど。貴方の顔が眺められるからね」  その後カスミとは意気投合し付き合うことになった。なんせ暇な時間はたくさんあったからだ。そしてカスミと話す事だけが日々の幸せになった。正直運命の出会いだと思ったよ。  その後、私たちは無事に退院することができ、今は遠距離恋愛とはいえカスミと共に生きていく事を決め、嫌でも舌に残った魚の味は思い出の一つとなった。  そしてもう一つの出会いは新しい自分だった。  あの惨劇から一年、私はその日までは避けていた桜並木を歩いてみることにした。やはり昔と変わりなく花を咲かせており、私の視界に満開の桜が入り込んだその時だった。気づくと私は自宅のベッドで横になっており、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいたのだ。初めは気を失って倒れたのだろうと思ったが、それが誤りであると知ったのはカレンダーを見た後だった。なんと日付が変わっていなかったのだ。その後も何度か試したが全て同じ結果となった。  結果から言おう。  私は桜を目にするとその日の朝に時間を巻き戻す能力を手に入れていたのだ。桜があの日を連想させ、それから逃れようとする本能から発現したのだろう。  ここの魚は味が濃厚ですごく美味しい。病院食とは違ってね。白身魚を平らげて少し外の夜景を眺めていると、さらに新たな皿が運ばれくる。  ここまで聞くと私の人生は桜で終わっていない様に思える。薄味の魚も良い過去だと思うだろう。  さてここで一旦、魚料理を食べた口をスッキリさせようじゃないか。   「お待たせ致しました。こちらはお口直しの檸檬のシャーベットでございます」  ウェイターは銀色のクローシュを持ち上げる。  
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加