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逃げ道
学生たちの声が飛び交う居酒屋。大学二年になったレオは、ゼミの交流会兼飲み会に来ていた。騒がしい集まりは特段嫌いではないが、かといって好きでもない。もう一つの要因も相まって彼は一人憂鬱な気分になっていた。このままここにいて楽しい空気を壊すのも嫌なので、何か理由をつけて抜け出したい。そんなタイミングだった。通路を挟んで隣の席、一人で飲んでいた男性が店を出た。テーブルに置いたスマホを残して。
「どうした?レオ」
何かを注視しているレオを不思議に思い声をかけたのは、隣にいたタイガだ。彼は幼馴染で、“もう一つの要因”だった。
普段のレオだったら、例え忘れ物があっても届けようとはしなかっただろう。しかし、この状況、少しでもこの場から離れたかった。
「隣の席の人、スマホ忘れたみたいだから俺届けてくる」
「え?じゃあ俺も行く」
「二人で行ったらおかしいだろ。すぐ戻るよ」
心配そうな顔を見せるタイガを横目に、レオは淡々と言い放ち、素早くスマホを手にして店を出た。あの場から、というよりも、彼から距離を置きたかった。
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