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閉店後、獅子雄と虎太郎
「残念だったな。最速で終わったか?」
「まだ始まってもなかったよ」
「今回は縁がなかったってことだな」
「……もう一杯」
「そんなに悲しかったか」
「違うよ。ただ、お酒の力を借りて素直になろうかなって」
グイっとひと飲み。
「僕ね、忘れられない人がいるんだ。誰を好きになっても、その好きに嘘はないと思ってたけど、いつも頭の中にそいつがいるんだ」
「……もう、諦めたんじゃなかったのか」
「諦めようとしたよ。自分の気持ちに蓋をして今まで生きてきたし、生きてこれた。でも……。もう一杯ちょうだい」
「しゃべりすぎだ。今日はもう」
「逃げないでよ」
切なく響く。
「僕も、逃げたくない。彼らにアテられちゃったかな」
苦笑し、注がれた酒を今度は半分流し込む。
「そいつのこと、今でもやっぱり好きなんだ。一回振られて、想いを伝えることが怖くなったけど。離れたくても離れられなかった。新しい恋を探しても、自分で決められないから3回偶然あった人って条件設けたり、その人を意識しちゃってわざと年の離れた人を選んだり。でも、そろそろそれもつらくなってきたかも……」
「……」
「今日、もう一度そいつに告白する。それで、終わりにするよ」
「終わりにするって」
「もう会わないってこと。少なくともしばらくは。じゃないと、本当に僕前にすすめないから。落ち着いたら、また店に来るよ」
残った酒を見つめる。これを飲んだら、目の前の男に想いを告げる。それがこんなに心臓を打つことなのかと、獅子雄は自嘲気味に笑った。
覚悟を決めてグラスに手を伸ばす。しかし、突然伸びてきた手に奪われてしまった。
そしてそのまま目の前の男の口へと流される。
「虎太郎、なにしてっ……!?」
黙らせるように、獅子雄の唇に自身の唇を重ねた。
「……ほんとに、何してくれてんの……」
「俺も、酒の力借りて素直になろうと思った」
「……は?」
「だから……俺は口より行動で示すタイプなんだ」
「なんだよ、それ」
二人はしばらく、照れくさく笑い合った。本当に久しぶりに、心の底から笑い合った。
「俺のこと振ったくせに」
「認めたくなかった」
「嘘でしょ。それが理由で、僕こんなに苦しんだの?」
「俺だって。気持ちの整理がついた時にはもう遅いと思った。お前は前に進もうとしてたから、今さらだよなって。だからせめて、何か理由をつけて、お前をつないでいたかった」
「失恋したら、店で慰めてやるって言ったやつ?どういう気持ちで俺の恋愛みてたのさ」
「失敗すればいいなって。俺のところに戻ってくる度、内心喜んでた」
「そんなこと思ってたの。全く知らなかった」
「隠してたからな。俺もお前の本当の気持ち気づいてなかった」
「結局、僕も君も、素直じゃなかっただけか」
「今まで悪かった」
「僕の方こそ。でも、これからは本当の気持ちでいていいんだよね」
「ああ……なぁ、獅子雄」
「ん?」
「好きだ」
「!っ……っ不意打ち禁止!!」
「かわいい」
「虎太郎のばか!僕も好き!」
こうして、一度消えかけた二組の恋は、再び熱をもって揺らめいたのだった。
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