二話

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二話

「……」 硝子越しに見返す分身の痴態に思考が澱み、灰色の瞳を限界まで見開く。 「お戯れを。旦那様」 羞恥に赤らむ顔を背け、たどたどしく言葉を紡ぐ。 伯爵が用意したコルセットは胸部を大胆に露出した扇情的デザインで、初々しい小粒の乳首が丸見えな上、絞った分だけ臀部の曲線と肉感が引き立っている。 それは純潔(ヴァージニティー)を守る鎧にあらず、男に鑑賞させることを目的とした―あるいは消費されることが前提の娼婦の装いに似、フェチズムを極めた媚態を呈す。 鳥肌立った太腿に剛直が当たる。 固く猛りきった逸物が尻の割れ目に食い込み、充血しきった会陰をこそぐ。 伯爵は興奮に息を荒げ、貧相な赤毛の少年にのしかかり、発情した雄豚さながら耳を舐め回す。 「なかなか似合うじゃないか。肉付きが悪いのが残念だが」 あられもなく下半身を剥かれた少年が楽屋の踊り子めいた……もっと穿った見方をすれば支度中の娼婦さながらコルセット一丁で恥じ入る姿に愉悦し、肌が上気する様にえもいわれぬ嗜虐をそそられ、ウエストの穴から垂れた紐をおもむろに掴む。 「ッぁ!」 不意打ちの締め付けに息が詰まる。 「ははっ、イイ声だな」 「旦那さまっ、許しっ、ぁぐ、おねがっ、あ」 「そうかこれが気持ちいいのか、ならばもっと強く絞ってやる、歌えオリバー」 「やめ、ぐっ、あ、苦しっ、ぁあっ息が、ひッぐ」 伯爵がサディスティックに紐を引っ張る都度、骨が軋んで臓腑を締め上げる激痛に仰け反り、窓に縋り付いて泣き叫ぶ。 大人は誰も助けに来ない。 知ってて知らんぷりをする。 イーストエンドの貧民窟で生まれ育ったオリバーが貴族の家においてもらえているのは、スタンホープ伯爵の生きた玩具だから。 オリバーは娼婦の私生児として産まれ落ち、母が性病に倒れたのちは似顔絵描きで生計を立ててきた。 表向きは画家志望の子息の友人として迎えられたものの、その実態は平民を蔑む貴族の慰み者にすぎず、どんな変態的な要求や理不尽な命令も甘んじて肯わねばならない。 「ぁッ、んっ、あ゛ふっうっ」 「見ろ、エドガーが遊んでいる。声を上げたら聞かれてしまうかもな」 「それだけ、は、ああっ」 「手を傷付けさえしなければ何をしてもいいとお前が言ったんだぞ、忘れたのか」 「旦那様っ、ぁっあ」 窓に手を突き、ただひたすらに無体を耐え忍ぶ。 伯爵は背面部に交差した紐を容赦なく引っ張り、ただでさえ細い肢体を拷問紛いに締め上げ、一際痛々しいボーイソプラノの悲鳴を上げさせる。 その間も薄っぺらい胸板や痩せた腹筋を執拗に撫で擦り、ピンクに蕾む乳首の先端からしこった根元までコリコリ揉み潰して芽吹かせ、会陰の膨らみを摩擦するのを忘れない。 「全く嘆かわしい、こんな淫乱が息子の寵愛を得ているとは」 「ごめッ、なさ、ぁッあ」 「正直に白状なさい。エドガーを誘惑したのか」 「してません、ふッうっ、エドガー、様ッに、誘われて、一緒に遊んだだけ、ぁッあっ」 締めては緩め、緩めてはまた締め。 紐の調節に応じ圧搾と弛緩が交互に訪れるコルセットの責め苦が絶え間ない愛撫と絡まり合って性感を高め、次第に吐息は悩ましい湿り気を帯び、剥けてもない股間がもたげ、被虐の官能が兆し始める。 「見なさい、糖蜜のように滴ってる。股間の絵筆もそそりたって……自分の姿にさかってるのか?所詮はイーストエンドの卑しい孤児上がり、道行く男に片っ端から尻を貸してきたんじゃないか」 「してません、ぃぐ、そんな」 股ぐらに潜り込んだ手が陰茎を捏ね、まだ女さえ知らない淡い色合いの莢を剥いていく。 「大人用にしてやったぞ。感謝なさい」 包皮を剥かれた激痛に潤む視界が捉えたのは、そばかすが散った裸身にコルセットを纏い、淫らによがる母の幻。 次の瞬間、片手で口を塞がれた。続けざま衝撃が襲い、脳天で閃光が爆ぜる。 「ん゛ッ、ん゛っ、ん゛~~~~~~~~~~~~~ッ」 でっぷり贅肉が付いた尻を思いきり叩き付けられ意識がとぶ。 雄々しく勃起した剛直が直腸を削り、体の奥の奥まで貫く。 オリバーは身も世もなく泣きじゃくり、真っ赤に茹だりきった顔でせがむ。 「ごめッ、なさ、抜いてくださッ、ぁ゛っ、ん゛っ、ひあっ、やだ、腹苦しッ、もっだめ、息できねっ、あぁっあ゛」 ぢゅぷぢゅぷ下品な水音を伴い粘膜を巻き込む抽送。腰遣いは残忍に激しさを増す一方。 「おねがッ、引っ張らないでくだ、さ、はらわたでちゃうっ、あぐッ」 伯爵が紐を引く都度括約筋が収縮、肛虐の快感を強制的に目覚めさせられた粘膜にびくびく痙攣が伝い、鋳型と化した直腸が陰茎を締め上げる。 異変を察した犬が二階を見上げ吠えたて寿命が縮む。オリバーは汗と涙と涎を垂れ流し、窓を引っ掻いて泣き叫ぶ。 「ああ、よく締まる」 ただ突かれるだけで死ぬほど苦しい上に初体験の拘束具が肺を圧迫し呼吸を妨げ、抽送のたび下肢が攣り、なのに感度は極まって、床には粘り気を帯びた水たまりができていた。 「また漏らしたのか、はしたないなヤツめ。ジョージィ・ポージィより行儀が悪いじゃないか」 「ごめ、なさ」 「お仕置きだ」 内腿を伝うしずくのぬるさにしゃくり上げ、うずくまりかけたオリバーの脚をたちどころに掴んで広げ、綴じ窄まった肛門の皺を挿入の圧で伸ばし、前立腺に狙い定めて突いて突いて突きまくり、ずぷりと埋めたそばからずちゅり引き抜き、狭苦しい隧道を甘美に蠢動する媚肉に作り替え、抉り込むような腰遣いで抜き差しを繰り返し、喉仏すら張ってない十代前半の少年を自分好みに調教していく。 「あッ、ぁッあっ、ぁあっあ」 窓の向こうでエドガーが遊んでいる。 人の気も知らず、光の庭で。 どうあがいても手が届かない、遠く隔絶された世界で。 友と飼い犬の戯れを食い入るように見詰めるオリバーに何を思ったか、伯爵がその膝裏に手を通し、窓と向かい合わせに抱え上げる。 「あの子に本性を見せてあげなさい」 今エドガーが振り向けばおしまいだ。 きっと幻滅する。 絶交される。 アイツに軽蔑されたら生きていけない。 「ッ、ぐ、どうかお慈悲、を」 すかさず膝を閉じようとするのを許さずこじ開け、幼いペニスを力任せにしごき立て、いじらしく張り詰めた睾丸をくるみのようにコリコリもてあそび、肉の楔をパンパン打ち込む。 「淫売の私生児め、股間の絵筆が赤く尖って白い絵の具が滲んできたぞ」 「旦那様っ、なんでもする、します、だからはなして、恥ずかしッ、やぁッ、それだけ、は、エドガーにばれっ、ンあぁっ」 「スタンホープ伯爵の令息を呼び捨てとはな」 「エドガー様っ、が、気付いちゃうからっ、ひっ、こんなメス犬みてえなかっこ、ぁっあっ旦那様アあっ、もっ抜いてッ、頭へんッ、に、俺のケツぐちゃぐちゃしないで、ふあぁッ」 頼む今は今だけは振り向くなと狂おしく念じ、錯乱しきって腰振るオリバーに血管が浮き出た太い楔を叩き込み、肉と肉で繋がった伯爵が嬉々として叫ぶ。 「男は孕む心配がないから都合がいい、ほうら胎がうねり狂ってるぞ涎までたらしてだらしない顔だ、お前の節操はあそこで跳ね回ってるジョージィ・ポージィ以下だなははは!」 アイツに知られる位なら死んだほうがマシだ、お願い誰か、神様、誰でもいい、この際悪魔だってかまわねえ、いるんなら助けてくれ、今すぐアイツを(めくら)にするかさもなきゃ俺かこの人の息の音を止めてくれやだやだお願い 「イけ」 拷問具と化したコルセット紐を手綱の如く引っ張り、体奥を穿って命令。 「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!」 伯爵が射精に至ると同時にオリバーもまた絶頂し、窓に散った白濁がエドガーの笑顔を汚す。 犬は既に興味を失い、主人を追って庭の彼方へ駆け去っていた。 濃密に立ち込める栗の花の匂いに酔い痴れた伯爵は、精を搾り取られぐったり虚脱しきったオリバーを大股開きで固定し、少年の陰茎が萎えても全く意に介さず、その残滓すら搾り尽くさんと再び回復した剛直で律動的に貫く。 「命拾いしたな。息子は気付かなかったようだ」 極端な緩慢さで虚ろな目を上げれば、額縁に似た窓枠の中、何も知らないエドガーと愛犬が戯れている。 「白い絵の具がたくさんでた。新しい絵が描けるじゃないか」 尊厳を凌辱し尽くされ、虚無が蝕む心に殺意が芽吹き、憎悪が深く深く根を下ろす。 「遅いなあオリバー。お父様と何話してるんだろ」 美しい庭園の片隅にて、友人を待ち惚け菩提樹の木陰に寝そべるエドガーは、オリバーの身に起きた悲劇をまだ知らない。
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